12.アントンの憂い

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 アントンのもう1つの悩みの種は、マンダーシャイド伯爵家の宰相派からの離脱のタイミングである。アントンの父パトリックは、アントンが結婚すれば引退して爵位を譲ると言っていたが、その約束は今や反故にされそうである。 「私は父上の言う通り、結婚しましたよ。もうすぐ29歳にもなります。私の寄宿学校の同級生はほとんど爵位を継承しました。私もそろそろ……」 「それなんだがな、お前達に後継ぎが生まれるまでは俺は現役で頑張る事にしたよ。まだまだ宰相閣下のお役に立ちたいからな」 「約束が違うではありませんか!」 「お前の仕えるルイトポルト殿下もまだ即位されていないんだからいいじゃないか」 「殿下は私より10歳も年下です!」  家族としての情を持てない父を殺す事にアントンは躊躇しないが、腰巾着の父が急死してクーデター前に宰相に余計な疑いを持たれるのは困る。それにアントンは今でも父の直属の部下達をまだ掌握しきれていない。父親が現役にしがみつくのを容認するしかなかった。  これで改革後のマンダーシャイド伯爵家の行く末は決まってしまった。いくらアントンがルイトポルト側近だと言っても、当主が罪人となった家を取り潰さなければ、改革後の有力者達から不満が出るだろう。でもアントンは、マンダーシャイド伯爵家が取り潰されて自分が平民になる未来に絶望はしない。むしろ、こんな家はなくなる方がいいとまで思う。連座でアントンが追放されずにルイトポルトに仕え続けられさえすれば、いい。  ただ、王家の影を代々統括してきたマンダーシャイド家がなくなると、自分の子飼いの部下達をどうすればいいのか。ペトラや彼女の義兄ヨルクなど、直属の部下は王家の影に所属しておらず、アントン個人に忠誠を誓っている。だが平民になってしまったら、彼らに渡す給金を払えないだろう。それだけが心配だった。
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