13.義母の励ましと叱責

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 その日、アウグスタは、アントンの部下ペトラの制止を物ともせずにリーゼロッテの所にやって来た。 「恥を知りなさい! 使用人風情が伯爵夫人の私の行動を制限するなど、もっての他です!――リーゼロッテ! 開けるわよ!」  アウグスタの淑女らしからぬ大声が扉を開ける前から部屋の中まで筒抜けであった。ノックと同時に怒り心頭のアウグスタがリーゼロッテの部屋に入って来た。怒りのせいでモットーの淑女らしさがどこかへ行ってしまっている。 「あ、お、お義母様……よ、ようこそ……い、今、お茶を淹れさせます」 「そんなの、いいわよ。それよりも人払いして私の話を聞きなさい」  アウグスタは、リーゼロッテに勧められる前にドカッとソファに座った。侍女が出て行き、部屋の前のペトラが扉から離れたのを確認してアウグスタは再び口を開いた。 「貴女、悔しくないの?」 「え?」 「今日、この部屋の前で警護している女は、アントンと身体の関係があるのよ。でもあの女だけじゃない。他の部下とか、どこかの未亡人とか、淫乱な嫁き遅れとか、娼婦とか、枚挙にいとまがないわよ。後から庶子が出てきて後継ぎ争いをするとか、ごめんよ。ちゃんと息子を捕まえておいてちょうだい」  アウグスタは、あたかも自分が体験したかのように切実な調子だった。リーゼロッテは、不思議とその言葉が腑に落ちて嘘でないと思えた。眉目秀麗で王太子の側近でもあるアントンが女性にもてないはずはないだろう。でも見合い以来、彼は優しく労わってくれるので、まさかそんな事を陰でしているとリーゼロッテは思わず、胸が痛くなった。
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