3.意地悪な侍女と家庭教師

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 マナーの授業は、リーゼロッテには特に辛い時間だった。マナー講師はフラウケの友人の子爵夫人で、家庭教師の中でリーゼロッテに1番きつく当たっていた。彼女の授業はカーテシーと挨拶から始まるのだが、いつもリーゼロッテのカーテシーが不格好だと叱った。 「先生、今日もよろしくお願いいたします」  リーゼロッテが膝を曲げて腰を下げて挨拶をすると、マナー講師の夫人の眉間に皺が寄った。 「不格好よ! また身体の芯がぶれています」 「はっ、はい! 申し訳……!」  夫人は扇子をリーゼロッテの横腹にこれでもかというぐらい強く何度も打ち据えた。リーゼロッテは慌てて謝罪しようとしたが、ブチンと前身頃のボタンがはじけ飛び、謝罪の言葉を最後まで紡ぐ事ができなかった。ボタンが落ちてドレスの前がはだけて下着が露わになってしまい、リーゼロッテは慌ててドレスの打ち合わせ部分を手で寄せた。 「まぁ! なんですの! 恥さらしな……!!」 「も、申し訳ありません……でも……」 「言い訳無用です! 侍女がドレスをきちんと管理していなかったと言いたいのでしょうけど、侍女の采配も貴婦人の役目ですよ。侍女の失態は貴女の失態でもあるのです!」  リーゼロッテは痩せていて妹のお古でも緩いぐらいだし、きちんとボタンが縫い留められていたら、扇子で打ち据えられたぐらいでボタンがはじけ飛ぶはずがない。だが家庭教師はそんな事は認めず、グチグチとお小言を始め、本来のマナーの授業時間はほんのわずかになってしまった。小言に少しでも抗弁すると、その10倍の長さと威力で小言が返ってくるので、リーゼロッテは小言を右耳から左耳へ流すしかなかった。  それが通常運転でリーゼロッテのマナーは一般的な貴族令嬢のレベルには程遠いままだ。それでも父エーリヒがリーゼロッテの習熟度を細かにチェックする訳ではないので、マナー講師は未だにお咎めなしである。  他の家庭教師にも、そんな事まで知らないのか、できないのかと呆れてられてリーゼロッテは辛く当たられた。リーゼロッテは今まで最低限の読み書きしかできなかったし、要領が悪いので、何とか一生懸命に教えられた事を覚えようとしても中々上手くいかなかった。貴婦人の嗜みと言われる詩作や刺繍はとてつもなく苦手で、大陸共通語も発音がおかしいと叱咤され続けた。それに生育環境ゆえにとても引っ込み思案で人見知りする性格も変えようがなかった。
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