22.身勝手なお願い

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22.身勝手なお願い

 クーデター後の今、リーゼロッテは、マンダーシャイド伯爵家のタウンハウスに1人きりだった。アントンの父パトリックは議会で捕らえられ、母アウグスタも先日捕縛された。住み込みの使用人もいるにはいるが、マンダーシャイド家はクーデター後、泥船だ。使用人は、早々とこの家を見限るか、そうでなくとも執事との面談後、辞めていき、今やタウンハウスを維持するのに最低限の使用人しかいない。アントンは、クーデター後、多忙を極めていてほとんど王宮に泊まり込みで帰ってこなかったが、執事はアントンから使用人の紹介状を預かっていた。  リーゼロッテは、日がな一日、本を読んでいるか、刺繍の練習をしている。クーデター前、リーゼロッテはアントンの勧める淑女教育は元より、彼の黙認の元、アウグスタから家庭教師を紹介してもらい、領地経営補佐に役立つ会計なども学んでいた。だがクーデターで教師の一部は捕縛され、そうでなくとも治安が悪化しているので授業がなくなってしまった。  アウグスタが王宮の地下牢に引っ立てられていく前、リーゼロッテの学んでいる事に役に立ちそうな本をマンダーシャイド伯爵家の図書室から持ってきてくれた。全部読み終わってしまったら、王立図書館の司書に聞けばよいと教えてくれたが、図書館はクーデターの余波で当分の間、閉館している。  リーゼロッテが自室で本を読んでいると、ノックの音が聞こえた。やって来たのは執事であった。 「若奥様、手紙でございます」 「ありがとう」  手紙は、見知らぬ貴族夫人からだったが、おそらく反宰相派の家の茶会の誘いか何かなのだろう。この時世に呑気な事だが、怪しい手紙なら、執事はアントンに送って判断を仰ぐはずだ。そう思ってリーゼロッテは、手紙を読む事にした。
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