24.去る部下達の結婚

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24.去る部下達の結婚

 アントンの部下の影ペトラは吐き気が何日も続き、町医者にかかって妊娠が判明した。クーデター後、調査対象者と関係を持つ必要もなくなったので、心当たりがあるのはアントンだけだった。  ペトラは、クーデター前は必ず避妊薬を飲んでいたのだが、クーデター後は政情不安で入手しづらくなり、事後に飲まなかった事もあった。でも10年以上飲んでいた避妊薬は副作用として大抵不妊になるので、この妊娠はペトラにとっても予想外だった。  諜報活動は、子育てに協力してくれる家族がいない独身の女が続けられる仕事ではないので、ペトラは影をきっぱり辞め、今住んでいるマンダーシャイド伯爵家の影専用住宅を出て行くのを決意してアントンに伝えたが、妊娠の事実は言わなかった。 「ペトラ、本当に辞めるのか? 私はこれから平民になるから君達をもう雇い続けられないが、王家の影に移動できるぞ」 「いいんです。私はもう人を騙す諜報活動はもう沢山なんです」 「そうか? それなら近衛騎士団はどうだ? 君の実力は折り紙付きだし、これからは積極的に女性を登用していく方針だよ」 「私の能力を買っていただいてありがとうございます。でも私はひっそりと生きていく事にしたんです」 「そうか。残念だな。執事から後で退職金を受け取ってくれ。君のこれからの健勝を願ってるよ」 「ありがとうございます」  ペトラが執務室から出て行く時、アントンはもうその背中を見ておらず、机の上の書類の処理に再び没頭していた。
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