24.去る部下達の結婚

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 その日の夜が更けてほとんどの人が眠った頃、ペトラは最低限の荷物をまとめて影専用の住宅を出た。すると突然背後から肩を掴まれてペトラは驚いた。何の気配も感じさせずに近づけるのは影しかいない。振り返ったらヨルクだったので、ペトラはほっとしたが、彼が厳しい表情をしているのには訝しんだ。 「なんだ、義兄さんか。驚かせないでよ」 「こんな夜更けに荷物を持ってどこにいくつもりだ?」 「アントン様に辞めるって話したの」 「だからって夜に出て行く必要はないだろう?」 「いつだっていいじゃない」 「駄目だ!」  ヨルクはペトラをいきなり抱き締めた。ペトラは急に体を締め付けられて少し収まっていた悪阻がまたぶり返した。 「うっ! 義兄さん、は、離して! 吐いちゃう!」 「どうしたんだ?!」  ペトラが吐いている間、ヨルクは彼女の背中をひたすら擦った。吐き気がやっと収まってペトラが立ち上がると、ヨルクはおずおずと口を開いた。 「なぁ、ペトラ。お前……違ってたら悪いんだけど……妊娠しているんじゃないか?」 「だったらどうだって言うの? 私は産むわよ。10年以上も避妊薬飲んでいたのに私の所に来てくれたのよ。これを逃したらもう子供を持つ事なんてできないかもしれない。やっと家族を持てるのよ」 「その家族の中に俺は入ってないんだね……」 「あ……ごめん……私が言ったのは血の繋がったって意味で……義兄さんは血の繋がりはないけど、もちろん家族だよ。貧民街で義兄さんがいなかったら、私は今、生きていなかったと思う」 「これからも家族として一緒に……子供も一緒に3人で暮らさないか」 「それってプロポーズ?」 「あ、いや、その……そうだよ。ロマンチックじゃなくてごめん」 「義兄さんともヤっちゃったけど、義兄さんは兄として好きだよ。だから結婚は考えられない」 「今はそれでもいい。一緒に暮らさないか? 今すぐじゃなくていいから、一緒に住む中で俺の事もゆっくり考えてくれればいいよ」 「でも……この子は義兄さんの子供じゃないよ」 「分かってる。アントン様の子だろう? アントン様には言ったのか?」 「言わないよ。奥様に申し訳ないし、アントン様を愛している訳でもないから」 「そうか。でもお前は殿下――いや、陛下の事が好きだっただろう? それはもういいのか?」 「うん。初恋だったとは思うけど、もうそんな気持ちはないよ。それに陛下の目にはパトリツィア様しか映ってないし、私みたいな身分の低い穢れた女に好かれても迷惑でしょ」 「お前は穢れてないよ」
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