24.去る部下達の結婚

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 ヨルクはペトラをそっと抱き寄せ、額にキスをした。 「俺と一緒にここを出よう。この子はお前と俺の子だ」 「でも……」 「じゃなきゃ、身重でここを辞めてどうやって生きていくんだ? それにお前が1人で子供を産むなんて心配で俺はどうにかなりそうなんだ。頼む、俺を助けてくれると思って一緒に行こう」  ヨルクはペトラの両腕を掴み、頭を下げた。 「……結婚してもすぐには義兄さんを男として見れないよ」 「それでもいい! 頼む!」 「私、ずっと避妊薬を飲んでいたから、義兄さんの子供を産んであげられないかもしれないよ」 「それでもいい。今のお腹の子が俺達の子だ。頼む!」  ペトラはヨルクの申し出を受け入れ、翌日のヨルクとアントンの面談の後に一緒にマンダーシャイド伯爵家の影の家を出て行く事にした。  辞意を既に伝えたペトラ以外の部下の行き先について、アントンは全員と個人面談をしていた。アントンが平民になれば、彼らを雇い続けられないし、クーデターが成功した以上、王家の影と別に内密で諜報活動をする必要がなくなったからだ。もちろん諜報活動は、引き続き王家の影が行うから、部下達が希望するなら王家の影に移動してもらう事になった。 「ヨルク、本当に王家の影に行かないのか?」 「アントン様、人を騙すのは、もう沢山なんです。私は前王弟殿下の事、嫌いではありませんでした。あの方はちょっと浮世離れしていましたが、善人でした。その方を騙して……結局死なせてしまって……」  ヨルクは嗚咽してしまって最後まで口にできなかった。 「何も殺さなくたって……よかったのに」 「何か誤解があるようだが、彼は盗賊に殺されたと報告されている」 「白々しい! 彼はもう何も持っていなかったでしょう?」 「彼は、極悪人の元宰相に協力して王位を簒奪しようとしていたんだ。その罪は重い」 「でもそれも踏まえて正式に去勢の上で生涯幽閉に決まったんじゃないですか!」 「彼は脱獄して他の囚人2人を拉致した」 「だからってこんな殺し方はないでしょう?! これでは陛下の禁止している私刑ですよ!」  ヨルクはもう辞めると決意した以上、アントンの前で歯に衣着せぬ言葉を口に出すのを躊躇せず、アントンに食って掛かった。それにペトラの事でついとげとげしい態度が出てしまったのもあった。 「止めたまえ。とにかく君の希望は分かった。でも君程の実力者がもったいないな。騎士団への転職はどうだ?」 「それも結構です。それとペトラは私と結婚して一緒に行きます。子供もできました」 「そ、そうか。おめでとう」  ヨルクは返事もせずに面談の場から去り、その日のうちにペトラと共にマンダーシャイド伯爵家を出て行った。  7ヶ月後、クレーベ王国の王都から離れた小さな町で女の子が産声を上げた。夫婦はその子以外に子供を授からなかったが、末永く家族3人仲良く幸せに暮らした。
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