25.平民落ちの国王側近

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「……見損なわないで下さい!!」 「え?!」 「私達は神の下で誓い合った夫婦ではないですか。私は貴方が去勢されて平民になっても貴方の妻でい続けます!」  そこには、いつもおどおどしていたリーゼロッテはいなかった。彼女の決意に満ちた瞳には力強い光が灯っており、アントンはその瞳に気後れを持ちつつも魅入られた。 「だから私を今すぐ貴方の本当の妻にして下さい」 「君はもうとっくに私の妻じゃないか」 「私、知ってるんです。アントン様は私に睡眠薬と媚薬を盛って最後まで抱いたように見せかけてますよね。その後、部下の人達と私の……す、すぐ横で……関係を……」  リーゼロッテは、泣き始めてしまって最後は言葉にならなかった。行為の時は妻が睡眠薬で意識を失っているとばかり思っていたので、アントンは絶句した。 「気がついていたのか……すまない……」 「すまないと思うなら、罪滅ぼしをして下さい!」 「罪滅ぼし?」 「そうです! 愛妻家になって下さい!」 「愛妻家か……私にこれほど似合わない言葉はないな……なれるだろうか?」 「なれるんじゃなくて、なるんです!」 「なれるんじゃなくて、なる、か……」  アントンは泣きそうになるのを何とか堪えながら、リーゼロッテに手を伸ばし、腕の中に抱き寄せた。 「すまない……君とは離縁しなければいけないと思っていたから……」 「それが……わ、私のすぐ横で……他の人と、せ、性交する、理由にっ……な、なるんですか?!」  リーゼロッテは、泣きながらアントンの腕の中でせいいっぱい腕を伸ばして彼の胸板を叩こうとした。 「私はひどい夫だった、すまない……実は、数年前から時々、香の副作用で発情発作が出てしまって性欲が抑えられなくなるんだ。だからこんな男とは別れた方がいい」 「でも去勢されれば、性欲はなくなるんでしょう?」 「た、確かに……徐々になくなるだろうな」 「発作がある間は、私で発散して下さい。私は妻なんですから。だから他の人ともう2度と性交しないで下さい!」  実際にはアントンは去勢されずに済むから、性欲が抑えられなくなる発作はおそらく年々酷くなるだろう。そのためにもリーゼロッテとはもう離縁しかないとアントンは考えていた。 「駄目だよ。私は男ではなくなる。君の夫に相応しくない」 「いえ、私は貴方の妻でいます!」  リーゼロッテはアントンの説得に全く引かなかった。その繰り返しでとうとう翌日がタウンハウス明け渡しの日になってしまった。
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