26.妻の覚悟*

2/3
前へ
/94ページ
次へ
 アントンは、タウンハウス引き渡し後に一人暮らしするつもりで2部屋しかないアパートメントを王都で購入した。その住居は、平民街の中でも王宮に一番近く、平民の中でも割と裕福な人々が住む地区にあった。だがそれでも貴族街の一等地にあったマンダーシャイド伯爵家の大きなタウンハウスとは比較しようもない。美しい庭も格調高い調度品もないし、大勢の客が宿泊できる豪華な客室も、多くの使用人が住み込みで勤務できる使用人用の住居だってないし、王宮に通うのも遠くなって不便になる。  引っ越し先では、週に2回ほど通いの家政婦を頼む他に使用人はおらず、馬も専用馬車も手放す。アントンは、そんな環境にリーゼロッテを連れて行くつもりはなかった。  タウンハウス明け渡しの前日の夜、アントンがリーゼロッテの部屋に向かうと、彼女の部屋は大きな家具が残っている以外、既にがらんどうだった。 「ロッティ、今ちょっといいか?」 「はい。でも離縁の事でしたら、何度言われてもお断りします」 「だが明日の朝、この屋敷を明け渡さなくてはならないんだ。君とは離縁前提で陛下から恩赦を受けて君が修道院に入る手続きをしていない。明日からどこに住むつもりだ? 君の実家だってもう人手に渡って継母と妹も修道院に入っているじゃないか」 「あの人達に頼るつもりはありません。それどころか私を頼って何とか修道院送りを逃れようとしていたぐらいです」 「それじゃあ、一体どうするって言うんだ?!」 「私の覚悟を見くびらないで下さい! 私は妻としてずっと貴方と一緒にいます!」  リーゼロッテはアントンに抱きついたが、アントンは彼女の両肩を持って引き離して優しく諭した。 「ロッティ、それは駄目だよ」 「教会は生殖機能を失った配偶者との離縁を認めていますが、離縁を強制していません。そのまま結婚生活を続けてもいいんです。私はアントン様と一緒にいたいです!」  リーゼロッテは、もう1度アントンに縋りついた。彼女の薄い胸を押し付けても、アントンは欲情しないだろう。リーゼロッテはそう思って彼の股間に手を伸ばした。 「お、おい! ロッティ!」  奥手で大人しいと思っていた妻の大胆な行動にアントンは面食らった。可愛い誘惑だと嬉しく思ったものの、ここで屈する訳にはいかない。しかし最近、公私ともに忙しく、自慰も性交も極端に回数が減っていたから、意志とは反対に陰茎がどんどん大きく硬くなっていく。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加