4.女癖の悪い見合い相手*

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 リーゼロッテの見合い相手のアントンは、マンダーシャイド伯爵家の後継ぎであると共にクレーベ王国王太子ルイトポルトの腹心でもある。ルイトポルトの両親である国王夫妻は、互いに愛人を囲って贅沢三昧をしており、実務は宰相ベネディクト・フォン・ツェーリンゲン公爵に投げ出している。この国がベネディクトに牛耳られ、彼の家門の貴族が私腹を肥やしている間に、王国民の困窮が進み、国力が低下し、地下では革命を目指す民主化活動も活発化している。アントンは、ルイトポルトと共にベネディクトの失脚と革命なき王国の再興を目指している。  ただ、ルイトポルトは、ベネディクトの娘パトリツィアと子供の頃から婚約しており、彼女が幼少の頃から妹のようにかわいがっていた。だが彼女が蛹から羽化する蝶のように美しく成長するに従い、その感情は別のものに変わっていった。ルイトポルトは、彼女への愛と困窮に苦しむ国民のために宰相を排除すべきという気持ちの狭間で苦しみ、彼女を切り捨てる事ができない。アントンは身近でそんな主人の苦悩を見て憂慮している。  アントンの父パトリックもリーゼロッテの父エーリヒも宰相派の貴族であり、アントンは二重スパイのようにルイトポルトのために働いている。マンダーシャイド伯爵家は代々王家の影を統括しているが、アントンは宰相失脚計画のために個人的な腹心の影を雇っている。それだけでなく、貴族や豪商で使用人として働くスパイを送り込む職業斡旋所を経営するアレックスや、神出鬼没の売れっ子占い師など、市井にもアントンの配下を置いている。
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