エピローグ

1/2
前へ
/94ページ
次へ

エピローグ

 アントンが仕事に復帰してまもなく、2人は揃って夕食を食べていたが、リーゼロッテはあまり食が進まず、カトラリーを置いた。 「ロッティ、どうしたの? ほとんど食べてないじゃないか」 「ええ、最近ちょっと食欲があまりな……」  そこまで言ってリーゼロッテは、口を押えてバスルームへ駆けて行った。手の中ではもう吐しゃ物が溢れそうになっていたが、危機一髪で便器の上で吐けた。辛そうに吐き続ける妻の背中をアントンはひたすら擦った。 「ロッティ、大丈夫か?」 「え、ええ。もしかしたら子供ができたのかも」 「本当か?! 赤ちゃんには何が必要なんだ? 通いの家政婦さんに聞いてみるか?」 「気が早いわよ。できているかどうかまだ分からないわ。明日、お医者様に行ってくる」 「でも大分待つぞ。大丈夫か? 陛下に頼んで王宮の侍医に診てもらおうか?」 「駄目よ。私達はそういう不便も承知で平民になったのですから。平民女性はそれで妊娠出産しているんだから大丈夫よ」  翌朝、アントンは休むと大騒ぎしたが、リーゼロッテに尻を叩かれて渋々出勤して行った。でも執務室でずっと上の空だったので、結局昼過ぎにはルイトポルトに家へ送り返された。  アントンの帰宅時にはまだリーゼロッテは帰っておらず、アントンは医院へ向かって家を飛び出した。平民を診る医院は王都にそれほど沢山ある訳ではなく、リーゼロッテのあの具合では遠くに行けないから、必然的に彼女が診てもらう医院は推測できた。  医院に向かう道の途中、前からリーゼロッテが歩いて来るのが見え、アントンは駆け寄った。 「ロッティ! 大丈夫?」 「ちょっと吐き気はまだしてるけど、何とか大丈夫。それとね……赤ちゃん、できていたわ」 「やったー!」  アントンは路上にもかかわらず、リーゼロッテを思わずきつく抱きしめてしまった。 「うううっ! アントン、吐きそう……」 「ご、ごめん!」  それから7ヶ月程経ってリーゼロッテは男の子を産み落とした。その後、2人は避妊を続けてアントンの秘密を守り、2度と子供を持つ事はなかった。アントンは国王ルイトポルトの側近であり続けて功績をあげたが、授爵を断って平民のままでい続けた。その為、彼らの生活はマンダーシャイド伯爵家時代のように決して豊かではなかったものの、3人家族は金銭に変えられない幸せな生活を送った。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加