雨上がり殺人事件

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 喫茶店の窓ガラスから見える景色は都会の裏通り。今日は人通りは多くない。朝から雨が降っているせいもあるだろう。  そこへアスファルトの水溜まりを思いきり踏みつけて、傘も差さずに小さな白い手提げ袋を雨避けに頭の上に置きながらこちらに駆けてくる若い女性が一人いた。  如月華絵、27才。彼女がスカートを履いている姿を見たことがない。服も地味な物ばかり。  今日も紺のスラックスとジャンパーだ。  色気も糞も無いがデートでもないから当然か。  自動扉が開くと、物凄い勢いで入ってきて私を瞬時に見つけると近づいてきて頭を深く下げた。 「申し訳ありません。降りる駅を間違えました。約束の時間を30分も過ぎてしまいお詫びに何か買おうかとも思ったのですが、更に遅れそうなので走ってきました」  長い用意していたようなセリフを一気に言うとふぅ~と息を吐いて、初めて俺の顔を彼女は見てきた。 「で、傘は?」 「慌てて電車に忘れたようです」 「まぁ、座って」 「はい」  良く見ると、背は高くて細身で長い髪を後ろで結んでいる。ほとんど化粧もしていないが、きちんと化粧をしてそれなりの洋服を着てアクセサリーを付ければ、そこら辺のモデルさんよりも稼げそうな美人さんではある。刑事なのに少しドジなところがあって可哀想ではある。  たかが探偵に、こんなに低姿勢で頭を下げる刑事の理由は2つ。  恋する耕介の攻略法を聞くためと、耕介が解明した事件の真相を俺から聞くためだ。  そう、彼女だけは俺が事件のほとんどを解決してきたことに気づいているのだ。そもそもだが、非常に重要で外部に話してはいけない情報まで俺が聞いていることがバレたら、俺も耕介もまずい。それを黙っている代わりにいろいろ教えてくれと彼女は言ってきた。したたかな女でもある。そして俺を師匠のように尊敬はしてくれているようである。  まとめると、めんどくさい女である。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加