大地

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大地

なんにでもなれるという若さゆえの無謀なこころ。 何かを書くたびに忘れてはいけない感情だと思っていた。しかし人間、三十五を超えると、どうしたって自分の歩む道の先が見えてしまう。 見えてしまうと終わるんだよ。青春が。恥ずかしいくらいまぶしかった青春が。俺は、俺にとっての青春はずっとずっと終わらないような気がしていた。故郷に残り、地元の文芸雑誌に小説を送る。 熟すことを知らない、あほな青い果実。それが俺なんだとちっとも疑っていなかった。 いつからだろう。周りの言動が幼いと感じるようになったのは。 感情の振れ幅が大きくてコントロールできず、ひらめくままに言葉をネットの画面に叩きつける。そんな人々を、幼なくて、幼なくて、ああ、愛しいと思った。そのとき、もしかしたら俺は自分をある程度コントロールできていると感じているんじゃないかと気づいた。 それは、作家としては恐ろしいことなのかもしれない。とらえどころのないこころから生み出す言葉だからこそ、一片、一片が輝く。そう思っていたのに……。 そんなときだ、拓海。きみを見つけたのは。 学生時代は言葉少なだったきみが、あんなにきらきらした大人になるなんて……。演技しているきみは、俺が見てきたきみよりも"生きている"感じがした。 東京という陽の光を浴びて、大きく成長して花を咲かせた。俺にはそう見えた。 じゃあ、三十五年間ふるさとを離れずにただ書いてきた俺は、熟す機会を失った腐った種なんだろうか? 十八歳まで俺たちは、同じように港町の空気を吸い、同じように何の役に立つかわからない授業を聴いていた。いや、同じようにと思っていただけなのかもしれない。 与えられたものが同じでも、身に宿したのは全く別の種だった。だから、きみは花が咲いたんだ。 俺は自分の小説に、きみの花が添えられたら、少しは派手になるんじゃないかと思った。 高校生三年のあの日。"旅立ち届け"を俺は燃やした。 賢い俺は、このちっぽけな街でしか生きられないとわかっていた。 世界が怖かった。世界を見れば、世界に絶望する。 都会の交差点を歩くより、ふるさとの裏通りを歩いて、物語の種を探す。 そんな人生を俺は選んだんだ。選んだのは俺自身だから、種が腐ったとしても受け入れるしかなかった。
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