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ーーー何十年ぶりのベットだろうか
薄い生地の毛布に包まって床で眠っていた時より、ふかふかな羽毛布団で優しく包み込んでくれたから安眠だって余裕でできてしまった。
「 ああ…… 一生、のんびりしていたい…」
「 では、永眠できるようお手伝いしますね」
「 うん、ありが……って、シルヴァ!?」
ーードサッ
驚きすぎてベットから転げ落ちてしまった。
「 ゼタス様に頼まれて起こしに来ました」
屋敷に来た頃の礼儀正しいシルヴァだった。
「 あ、ありがとう… 」
私は、少しぎこちなくお礼を言った。
かつて、私を倒したシルヴァが朝を起こしに来るのは私からしたら異質な光景だった。
「 ーー朝ご飯の支度ができていますので、早く食べに来てください」
「 ーーというか、昨日の今日あんな事があったのに、よく普通にしゃべれるな 」
流石に、昨日まで殺そうとしていた者と何事もなかったかのように話そうとしている
シルヴァに物申したくなった。
「 …ゼスタ様にあなたと仲良くしてほしいと頼まれてしまいましたからね…
例え、糞を食う金バエだったとしても友情を超えた、親友になってみせます、
ーーゼスタ様の為に!」
主人のための努力は認めるが、友人を
"金バエ"呼ばわりする交友関係はいかがなものだろうか。
「 でも、私…ご飯は要らないかな…」
おそらく、シルヴァが朝食を作ってくれたのだろうが私はいらないと断った。
「 ほお… 私の作るご飯はそんなに嫌ですか…
本気で"糞"を食わせる必要がありそうですね」
「 そう言う意味じゃなくて!!ーー カーミラ
だから食べれるものが普通と異なるんだ!!」
私は、誓約のせいで今まで通り人間の血を飲めなくなった。でも食の好みが変わった訳ではないので、人間以外の血を飲んで腹を満たすしかなかった。
「 なるほど… ちなみに血液以外の物を食べるとどうなりますか?」
「 ーー嫌、食べたことないから分からない」
「 それ、ただの食わず嫌いですよ!!
ーーいいから、黙って食え!!」
質問に応えた瞬間、キレたシルヴァが朝食を食う事を強制し始めた。
「 ーーいやだ!! 過去に料理の味見をするたびに腹をこわした事あるから嫌なんだ」
客人を持てなすためによく料理の味見をしていたが、体に合わないのかすぐに体調が悪くなってしまう事もあり、風呂を嫌がる子供のようにタダをこねた。
「 はあ… 分かりました ご飯は食べなくてもいいです…」
シルヴァは、折れたのか私が朝食を食べなくていいと諦めてくれた。てっきり、昨日の銃とかで脅しにかかると思っていたので以外だった。
「 ーーですが、" 仕事はしてもらいます" 」
「 ーー仕事?」
ーー そして、私の屋敷での生活が始まった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「 この屋敷は私たちだけで屋敷仕事を回す他ありません。今日もゼタス様ためにーーー 」
あの男のためにとか言うとやる気が削がれてしまうが、それよりもシルヴァから聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「 シルヴァ …ここにいる" 私だけ"って聞こえたんだけど…?」
「 そう言っています… 吸血鬼…」
たった今、過労死という言葉が頭をよぎった
「 そうだ、シルヴァ以外の従者にも手伝ってもらおう、二人だけでは流石に…」
「 ーーいませんよ、もともと」
私が過労死しない希望を残酷な真実を突き尽きて黙らせるシルヴァだった。
……どうりで昨日からあの男とシルヴァ
以外の者を見なかったわけか
「 まずは、掃除からですね…」
シルヴァは、掃除用のモップと雑巾を片手にそう言った。
「 ーーちょっと待て!どうせ屋敷を動き回るから最後にやればと思うんだが」
私は、シルヴァ"メイド長"に異議申し立てた
ーーが、それが良くなかった…
「 があぁぁぁぁ!!頭が!!割れるーー!!」 私は、頭を握り潰されそうになった。
「 ーー何を言っているのですか、私たちが動くという事は、ゼタス様も動くということ。私たちが動いて汚した所をゼタス様に歩かせる気ですか?清潔を常に維持するのは当然のことです。私たちが楽になろうと考えるのはにのつぎの話なんですよ」
忠義を貫き、主人の事を第一に考えられるのは素晴らしいと思うが、私の頭から ミシミシと、鳴ってはいけない音が鳴り始めているからやめてほしい
「 ーーとにかく、朝と夕方の二回行ってもらいます…分かりましたか?」
ほぼ恐喝だったが、ここで振った首ごとへし折られるのは勘弁だったので、渋々だが掃除することにした。
ーーー疲れた……
なんとか朝の一回分の掃除が終わらせた。
「……そろそろお昼頃ですね、お昼ご飯の
支度を始めなければ」
シルヴァは、通路にある古時計を見ながらそう言った。
掃除をした後に、休み無しで昼ご飯の準備に取り掛かるなかなかハードなスケジュールだった。
「 ーーそれと、吸血鬼… あなたにやっていただくことがあります」
ただでさえ、掃除した後で疲れているのに、次は何をやらせるつもりなのやら…
「 今からあなたに料理をしてもらいます」
シルヴァは、今日食べるための昼食を私に作らせようとする気らしい。
「 いいのか… 私に調理場なんか任せて…」
異物や毒を入れるかも危険性があるよそ者なんかに炊事を委ねていいのか聞いた。
「 ーー構いません、これからもあなたに料理を頼む機会があるかもしれませんので、私が把握しておきたいのです」
意外にシルヴァはあらゆる事態を想定できる、機転が効いた人物だったらしい
「 もし、妙な動きを見せたらあなたを殺してゼタス様の食卓に並べます」
ーー訂正、機転の効いたサイコパスだった
でも、私は料理が得意な方だ
カーミラの時に自身の手料理を振る舞うことをよくしていたので、人よりは作れる自信があったので、他の仕事より楽そうだった。
「 ーーできました」
私は、すぐに貴族が食べるような食事を作って見せた。
「 見た目も悪くありませんね」
珍しくシルヴァから評価してもらった。
時間のほとんどを盛り付けの方に費やしていたから当然と言えば、同然である。
「 ーーでは、いただきます」
シルヴァは私の料理を口に運んび
「 うん 味も問題なさそうですね」
味に関する口出しもされなかったあたり、シルヴァの口に合っていないわけではなさそうだった。
「 それにしても変わった味の肉ですね、何の肉ですか?」
「 ネズミの肉です」
「 ブゥーーーーッ!!!」
シルヴァは思いっきり吹き出した。
ああ、勿体ない。せっかく大きくて美味しそうな野ネズミを選んだのに…
「 なんで、そんな物を使った吸血鬼ィィイイ」
「 ギャァアアアアーーーーーー」
シルヴァに思いっきり首を締められて、
調理場から悲鳴と怒声がこだました。
「 というより私、鶏肉や豚肉を用意しておきましたよねなぜ、使わなかったのですか!?」
「 だって、よく分からない肉を使いたいと
思いますか?」
「 ーー 私たちからしたら馴染みがない所か、
まず食べないんですよ、ネズミの肉は!!」
人間たちはネズミをあまり食べたりしないのかと、少しカルチャーショックを受けた。
結局、私では何を作るか分からないという事でいつもどおりシルヴァが作ることになった
「 あなたの料理のせいで少し体調を崩しましたが、次は洗濯をしましょう」
シルヴァは本当に体調を崩しているのか少しふらついていたが、それでも家事は続行するらしい。
この屋敷には私たち三人以外いないらしいから、そこまで洗濯物がないだろうと思っていたのだが想像よりも全然あった。
あの男が何枚も着込むせいで、上だけでも十枚近くあったし、ベットのシーツも手洗いしなければいけないので、それなりに大変だった。
「 ーーッ このシーツ、結構洗いずらい…」
「 コラッ、そこは優しく洗ってください!!
生地が傷んで、眠る時に障ります」
シルヴァが横で指示を出してくれているのはいいのだが、結構細かいせいでなかなか作業が進まない。
「 ふぅ…… 次の洗い物ーー」
「ーーッ!! 次の洗い物は私が洗います!」
唐突にシルヴァが待ったをかけたので何事かと思って自分の手元を見てみたが、ただの寝巻きだった。
「 なんだ…ただの寝巻きじゃないか」
「 それは、ゼタス様の寝巻きです!!あなたの汚い寝巻きとはわけが違うんですよ」
唐突に私が罵られたが、あの男の寝巻きがなんだというのか。
生地も私の着ている"汚い"物とそこまで
変わらないうえに、あの男の上着を洗う方がよほど大変だ。
「 あなたがやると、先ほどのシーツのように擦りすぎてしまいますので私がやります!」
そう言って、シルヴァは私の持っていた
寝巻きを奪い取ってしまった。
「 へへっ… ゼタス様の寝巻き〜」
私から奪い取った後、不気味な笑い声が聞こえてきた。
「 スーーッ ハァーーー 今日もいい香りだ…」
そう言ってシルヴァは、あの男の寝巻きを思いっきり嗅ぎ出した。
"今日も"とか言っているあたりこんな事を、毎日やっているらしい。
「 日々の楽しみは、やはりやめられませんね」
シルヴァは一種の依存症になっていた。
「 そろそろ視察に向かいますよ」
洗濯が終わり、不気味シルヴァからいつものシルヴァに戻った後だったが、唐突に家事ではあまり聞きなられない事を言い出したシルヴァだった。
「 ーー視察って、何するつもりなんだ」
「 ゼタス様が統括していている商法組合の
視察です」
父親の世間体のせいで誰も付き従う者がいないと聞いていたから、商売なんて到底難しいと思っていた。
「 ここからはゼタス様と一緒に行動しますので、くれぐれも無礼を働かぬよう」
流石に事業主である者がいないと示しでもつかないからなのか、あの男もついて来るようだった。
だからなのか、シルヴァが私に不作法を働くなとあらかじめ釘を刺された。
あの男と合流し、馬車(馬不在)に乗って街までやってきた。
「 久しぶりに人が多く住む街に来たけど、
何十年もたつと様子も変わるなあ!!」
街に到着して、あたり一面を見回してみたが驚くほど街の様子が変わっていた。
私が最後に来た時は、車の専用の道もなかったし、空中にランタンのような物も浮いていなかった。
肉屋や古道具屋など外観的な変化がない店もあったが、見たことない道具が並べておって、私は好奇心というなの衝動を抑えるのに必死だった。
「 ーーあまりはしゃがないでください、従者としてあるまじき姿です」
私は、シルヴァから主人がいるんだから
ハメを外すなと注意をしているが、私としてはこの男の従者にも妻になったつもりない。
ーー私は、あくまで客人のつもりである
「 もうすぐ着きますよ、セリア」
男が私の名前を呼びながら例の視察先に着くことを教えてくれた。
するとそこは、酒を売る小さな店だった。
「 いらっしゃい」
店には、体が引き締まったおじさんがいた
「 店の売り上げはどうだい、ゲレス」
「 ーゼタスの旦那じゃねえか!どうしたんすですかい?」
親しい間がらなのか、ゲレスという男は
明るく応対してくれた。
「 それと…!? ……シ、シルヴァ様もいらしたんですね…」
さっきほどまで明るかったゲレスがシルヴァの存在に気づくと、荒っぽかった対応が急変した。
「 ーーええ、お久しぶりゲレスさん」
ゲレスの反応を他所に悠然たる対応をしているシルヴァだった。シルヴァが何かしらのことした事は想像するまでもなかった。
「 あと、そこにいる子供は誰だ? 見ない顔だな… まさか!?お前らとの子供かあ!?」
ゲレスという男は何を言っているのか
私があの男とシルヴァとの子供だというけど、この二人の年を足しても私の年齢には
遠く及ばない。
私がシルヴァとの子供とか馬鹿を言うと、
シルヴァ本人がブチ切れてボコボコにーー
「 そういうふうに見えますか〜?ゲレス様〜」
ええ…シルヴァがとても嬉しそうなんだが…
どうしてしまったんだシルヴァ。私のことを散々吸血鬼や金バエなんて言ってたじゃないかーー金バエの母親でもいいのか?
「 ゼタスの旦那もやる事やってたんですね」
「 いや、セリアは僕たちとの子供ではなくてセリアは私の奥さーー」
「 ーー奥様方の遠い親戚、セリア・ヴァーグです。以後よろしくお願いします」
ーーこのくだり、何度やらせる気なんだ。
この男の妻とか言い出したら色々と面倒事になるに決まっている。
特にシルヴァに聞かれたら存在を抹消される
「 ーー何を言っているのセリアちゃん…私たち親子ですよねーー」
シルヴァが私の方に来て、親子であると訂正しろとでも言うかのように迫ってきた。
そこまで、あの男との仮初の夫婦になりたいのかと少し呆れてしまった。
「 そういえば、ゼタスの旦那… ちょっといいですかい?」
さっきまで雰囲気が一変し、ゲレスの顔に曇りはじめた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「 実は…ですね… 酒の一部の直送が途絶えてしまって困っているんですよ」
商売人として由々しき事態という事をゲレスも理解しているのか、とても深刻そうだった
「 おそらく、果樹園の奴らがなんかしらやらかしたんだと思うんですけど…」
「 分かった… そっちの方も少し見てくるよ…
伝えてくれてありがとう、ゲレス」
「 すまねえ旦那… 頼みます」
この問題をこっちの男が引き受けるようでゲレスの顔が少し落ち着いたようだったが、
「 ーー 一応、聞いておきますけど」
突然、シルヴァが話に割って入ってきた。
「 "まさか"とは思いますが、自分たちで飲んでしまって品物が無いなんて事は、万に一つもありませんよね」
「 も、もうそんな事してませんよ、シルヴァさん。私の魂に誓ってもいいぐらい、本当にマジなんですって…」
過去にゲレスが何かしらやらかしたからなのか、シルヴァからの信頼がとてつもなく薄い
まあ、シルヴァは主人のこと以外の物をあまり信用するような者ではないだろうが…
「 ーーもし… 嘘を言っているようでしたら、
あなたの生き血が商品の代わりに並べますよ」
どちらがカーミラだったか忘れてしまうぐらい、悪役さながらの脅迫を見せつけていた。
ゲレスは、口から泡でも吹き出すのではないかと思うぐらい、恐怖で顔が歪んでいた。
さすがにシルヴァでもそんなことはし……ないとは言い切れないな…
ーーやはり、この女は恐ろしい奴だ…
「 シルヴァ、どうせ果樹園の方による予定ではあるんだし後で確認すればいいよ」
そう言って、ゼタスがシルヴァを宥める形となった。
そして、私たちは例の問題になっているであろう果樹園へ向かうこととなった。
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