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私たちはオオカミの大群を退き、その後
シルヴァとも合流ができた。
結果、果樹園へ戻れはしたのだが、問題が解決したわけではなかった。
とりあえず、罠を設置し様子を見ることにした。
そして、私はまたこの男に助けられた。奴から逃げる時やシルヴァとの件、そして今回だってこの男がいなければ私の命はなかったと思う。
ーーでも、私はあの男を信頼できない
理由は、男が人狼だからだ。
人狼はオオカミに変身する人型の怪物であり、異常なほどの欲で他者へ暴力と強奪を繰り返し続けた種族であり…
ーー私の家族を殺した種でもある
あの男が悪い人間ではないのは私自身も理解している…
しかし、あの男がいつまでもいい人であり続けるとは限らない。
人狼の欲は劣等感から生まれた欲であり、その欲を満たすために攻撃的な性格になってしまう。
多くの人間はこの気持ちと戦いながらも生きている。
いい人でも悪い人でもこの劣等感を抱かず生きるというのはとても難しい。
もし、あの男に劣等感を抱くようなことがあれば攻撃的な性格へと変わり、傷つけることを躊躇らわない怪物へと変貌するだろう。
だから、私はこの男の前から" 消える"
消えて… あの男には平穏に生きてもらう
ーー 私は、悲願のために戦う…
私の家族を殺した" 奴"を冥界へ叩き落とすために
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
屋敷に戻り、二度目の掃除を終わらせた。
そして、男とシルヴァが寝静まるのを見計らい書き置きを残し出ていった。
私が向かった先は、果樹園だった。
しばらく森を歩いていると、昼間に襲ってきたオオカミたちが唸り声を上げながら出てきた。
しかし、シルヴァがオオカミたちを掃討したからなのか数がかなり減っていた。
ーー でも、こいつらに用はない
森の奥から黒い人影がこちらに向かってきた
「 こんな真夜中になっても来てくれるなんて…
ーー 会いたかったぜ、金鉱脈 」
このねっとり絡みついてくるような濁声と禍々しい気迫。
そして、私を金塊かなんかと勘違いしたような呼び名… ーー" 奴"が森の奥から現れた
「 そういえば、ごめんな… 会った時、人の姿じゃなくて… あの" ゴミども"にもこの姿で挨拶するべきだったよな…」
急に謝り出したと思えば、私の家族を嘲笑い出したりと奴の情緒が分からない。
ただ、奴が姿かたちが人間なだけの悪だということを理解した。
「 …… ひとつ聞きますけど、周りにいるオオカミたちって、あなたの眷族ですか…」
「 ーー そうだよ!こいつら全員俺の下僕!!俺の言うことならなんでも聞く!! 白髪の家政婦せいで数をだいぶ減らされちまったが… 金鉱脈を捕まえるには十分」
そう言って、ここにいる十匹のオオカミたちを見せびらかすように両手を広げている
「 ーーああよかった、この数でしたらあなたと一緒に冥界に送ってあげられそうです」
「 は?この数見て何言っての?昼間の戦い見てたけど、力もねえし足も遅せえ。おまけに頭も悪い金鉱脈がどうやって倒すの」
「 ーー今まで敗因は、不意打ちによる準備の不足です。ですが今回は万全にしてここに来ました」
「 準備って、その持ってるダガーのこと?
昼間に使ってた刃物より多少マシになったからって、そんな物で俺を倒せーー」
「 ーーちっ、外した」
狙いを定めて奴の頭蓋にダガーを投げたつもりだったが、奴の顔を横切り後ろの木に刺さっただけだった。
「 ……なるほどね、でもこれで君の手元から武器がなくなったけど、大丈夫?」
「 ーーご心配なく、ダガーの予備はまだまだありますので、何度でも喉元を狙えますよ」 と腰から新しいダガーを取り出して見せた。
「 ………」
私の殺意に当てられたからなのか、奴の
顔がしかめはじめた。
「 ーーオオカミども、金の鉱脈を生け取りしろ!! ただし、手足ぐらいなら千切り食っても構わん」
そう奴が言い放った瞬間、オオカミたちが襲いかかってきた。
奴も殺る気なようだった
ーー 怪物同士の殺し合いが今始まった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
深い深い森の中、オオカミも吠える真夜中でーーー私は、殺し合っていた
「 これで四体目… 」
ナイフに比べて血で切れ味も悪くならないから、いいペースで数は減らせている。
ただ、無駄に動きすぎて呼吸が乱れてきた。
「 おいおい、さっきまで冥界に送るとか息巻いてといて、息上がってるじゃねえか」
「 ーーークッ」
私はこの状況を変えるため、森の奥へ逃げた
「 また逃げるのか、逃げてばっかりだな
金鉱脈!! ーー まあ、逃さないけどな!!」
4匹のオオカミたちが逃げる私を追ってきた。
直線状に逃げても私の足では間違いなく追いつかれる。
だからジグザグに逃げて、少しでも距離を引き離そうとした。
しかし、相手はオオカミ
獲物を見つけたら死ぬまで追い続けられる体力とスピードを兼ね揃えた森の王。
だから、小細工も通用せず、すぐに追いついてきてしまった。
ーー でも、私はこれを狙っていた
オオカミたちが地面に埋まったのだ。
昼間の時に気づいたが、ここら一体には
底なしの沼地が所々にあった。
だから、あらかじめいくつか沼地を利用した即席のトラップを作っておいたのだ。
安っぽいトラップだが、真夜で地面もまともに見えない森でこの罠は十分に効力を発揮する。
いくら森の王とは言え、罠にかかって動けないうえに、私が刺せる位置に来てくれれば倒せる。
私はオオカミたちにしっかりとどめを刺した
これで、奴の連れていたオオカミの半数以上を倒したことになる。
ーー あとは、奴と数匹のオオカミだけだ
最初に出会った所に戻ると、奴は岩に腰かけながら数匹のオオカミたちと待っていた。
「 あれ、向かわせたオオカミたち全員倒したの。労を要さず、楽に倒せると思ったけど意外にしぶといな」
「 あなたと違って死ぬ気でやってますからね」
「 俺としては金鉱脈に死なれるのが、一番困るんだけど… 仕方ない、俺も働くかあ」
奴は全身に力を入れはじめ、徐々に人の姿からオオカミの姿へと変えていった。
ただ、前の四足のオオカミの姿ではなく、人のように立つ人狼の姿だった。
「 前の四つん這いの姿にならないのですか。あちらの方が速く走れそうですが」
「 あの姿だと腕に力が入れずらくて戦いにくいんだよ。だから、お望みどおり本気で戦ってやるよ!!二度と抵抗しなくなるぐらい徹底的に」
私は奴に怯みかけた。
オオカミたちの殺意も強いが、奴の言葉から伝わる殺意の方がはるかに上回る。
死ぬのを覚悟してここに立ってはいるが、私にとって奴が恐ろしい存在であることに変わらない。
体も覚えているのか震えが止まらず、奴に悟られないよう必死だった。
でも、私だって負けるわけにはいかない
ここで負ければ、奴は金儲けの為に痛ぶり殺すだろう。
それを察して、シロは私を庇ってくれた。
だから、家族であるシロとログを殺した奴だけは絶対に許さない
「 ーー かかって来い!!金の亡者 !!」
私たちの家族を殺したように、奴の渇望ごと殺してやる
ーーーーーーーーーーーーーー ーーーー ーー
私の怒声とともに奴との戦闘が始まった
奴は、一人だと勝てないと思ったのか、オオカミと突っ込んできた。
横ヤリが入らないようにオオカミたちを先に殲滅する。
手持ちのダガーを投げて、オオカミたちを一匹ずつ片付けていった。
しかし、奴はやられる仲間たちに目もくれず私に突っ込んできた。
慌てて腰から新しいダガーを取り出し、奴の 攻撃を逸らした。
攻撃を防がれた瞬間、すかさず奴は距離を取った。
「 案外強いね、なに前の演技だったってわけ」
「 持っている武器の質がいいのと敵が少ないから対処できるってだけです」
オオカミたちを殲滅し、奴との戦いに集中はできそうではあった。しかし、今の攻撃で分かったが、奴に力で負けている。
それに、私には誓約がかかっているせいで一撃で殺せなければ、攻撃したペナルティで死ぬうえに復讐も果たせなくなる。
ーー だから、" これ"を使う
実は、私が屋敷から出る直前にシルヴァに気づかれてしまった。
ゼタスからの命令もあり、私を逃がすわけにもいかなかったそうだ。
だから、私はシルヴァに事情を話した。
私が家族を殺した奴に復讐すること…
私がここに戻ってこないことも全て…
それでも止めてくると思ったが、私の事情を理解したのか許してくれた。
ダメ元でシルヴァも戦ってくれないかと聞いてみたが、やはり断られてしまった。
しかし、代わりにいい物をくれた
ーー 私を苦しめてきた" 誓約の銃"だ
玉は計五発、誓約は「 呼吸したら死ぬ」
私を苦しめてきた物だからあまり使いたくないが、これなら一撃で奴を倒せる。
そう思い、ずっと隠し持っていた。
奴の盾となるオオカミもいなくなったし、防がれる心配もない。
私は、持っていた最後のダガーを奴めがけて投げた。それを囮にし、銃を奴を狙って撃てば奴を確実に殺せる。
ーー だが、甘かった
オオカミがまだ生き残っており、襲いかかってきた。
銃の標準を奴からオオカミに素早く切り替えて撃った。
オオカミは倒せたのだが、銃の残弾が減ってしまった。
それに、悪報はそれだけではなかった。
「 あれっ?それ、誓約を刻む銃か。それに撃たれたら、俺でもさすがにヤバいなあ」と奴に奥の手がバレてしまった。
持っていたダガーも使い切り、手持ちにあるのは残弾四発の銃だけだった。
でも、追い詰めているのは私の方だ
たった四発しかないと言っても当たれば奴を倒せる。
ーーだから、まだ負けてない
「 ネタが割れても銃は銃。オオカミの足でかわせる速度ではありません」
私はかわしにくい胸を狙って発砲した。
そして、奴の胸に命中し膝から崩れ落ちた。
倒れたままピクリとも動かなくなり、奴を殺せたと思った。
私は、復讐という名の悲願を果たしたのだ
ーー やっと… やっと… 奴を倒せたと思った
と心の底からそう思った。
私も人間を攻撃したペナルティで死んでしまうだろうが、痛ぶり殺されるより良かった
復讐も果たせたし、これで心おきなく死ねるというものだった。
あとは、死を待つだけだと思っていた
「 ーー お"いお"い、こんな石ころで殺せるわけねえだろ」
死んだと思っていた奴が立ち上がった。
「 俺の体毛は、鋼の刃だって通さねえ!小銃ごとき効くわけねえだろ」
人狼種は銃が効きにくいと聞いていたが、まさか全く効かないとは思わなかった。
だったら、逃げる素振りを見せて相手が襲おうと大口を開けた瞬間に打ち込めばいい。
口内はご自慢の毛も生えていないし
「 嫌だ… 死にたく… ない」
私は、相手の油断を誘うためにわざと転び、地面を倒れ這いずるように逃げるような素振りしてみせた。弱者としての渾身の演技をお披露目したつもりだった。
その瞬間、隙を晒している私に食いついたのか奴がすごい速さで飛びかかってきた…
ーー " 大口を開けて"
「 ーー トドメだ、喰らえ!!」
千載一遇の好奇! 奴の口の真ん中にポイントを絞り狙った。
だが、奴もこれを狙っていた。
奴は大きな口で持っていた銃を粉々に噛み壊したのだ。
「そんな… ーーうぐッ!!」
呆然とする時間もくれないのか、奴は私の首を絞め始めた。
「 ある程度ネタはもう割れてるんだよ!!弱い素振りをするのも、誓約を刻むのも!! このまま首を締め潰して、蛇口にしてやりたいけど、お前には利用価値がある」
「 利用… 価値…」
「 ああ、お前ら頑丈なカーミラの血液にはどんな傷も瞬時に治す治癒効果がある。やけどに擦り傷、切り傷骨折、人体に及ぼすありとあらゆる傷害もお前の血さえあれば治せるってわけ。だから、お前で薬を作る。」
「 だったら… 頼めば少しぐらいなら……
ーーぐあぁあ"あ"あ"あ"!!」
奴はよりいっそう締める力を強めた。
「 黙れよ、資源の分際でいちいち指図するじゃねえよ。それに少量だけじゃ大金持ちになれねえじゃねえか。お前にはこれから大量生成し続ける装置として働いてもらう。俺のために一生なあ!!」
「 そんな事のために私の家族… ログとシロを殺したのか!!」
「 なんだよ、たかがコウモリ二匹死んだけでガタガタぬかしてさあ… あ、そうそう!!金鉱脈の就任祝いにこれやるよ」
奴は腰からある物を取り出して見せた。
ーー それは、クロとシロの羽で作られたネックレスだった…
「 ーーお前は!! どこまで私の家族を馬鹿にすれば気が済むんだあぁぁぁ!!」
私の家族を目の前で殺しただけじゃなく、
彼らの羽をもいで作ったのか… 奴は!!
「 なに、要らないの?せっかく、金鉱脈に喜んで欲しくて作ったのに… 仕方ない…」
奴は、持っていたキーホルダーを地面に落として
「 お前が要らねえんじゃ価値がねえなあ!!」
ーーグシャ
奴は足であの子たちの羽を踏み潰した。
奴は足であの子たちの羽をすり潰し、肉と骨が混ざる音があたりに響き渡った。
ーーグシャグシャグシャグシャグシャグシャ
それを何度も何度も何度も、私の耳にこびりつかせるように潰した。
「 やめろ、クソ野郎… お前の汚ねえ足で潰すんじゃねえ」
「 お前さあ、何でも俺が悪いって言うけどよお、悪いのは弱いお前らだよ」
「 そう言って、私の家族を殺したのを正当化しようするな」
「 だから、この世界は弱肉強食なんだって!!
弱い者が強い者の養分になるのは当然。俺からしたら、自身の弱さを正当化しようとするお前らの方がよっぽど悪だし、現に今お前が首を絞められているのは俺より弱かったからじゃねえか。それは、この世界が暴力で解決することを許しているってことじゃねえか」
「 そんなことが…許されるはず…」
「 ーー許されてるって言ってるだろうがあ!!」
ーーボゴォ
「ごふぉッ!!」
「 ほら、殴ったけど俺は全然痛くもなんともない。世界が許しているから罰も受けない。証明されてるんだよ、この理屈はぁ!!」
ーーボゴォ
「 ガハァッ!!」
「 つまり、お前がもっと強かったら家族とかかも守れたし、こうして殴られることもない。お前の弱さが家族を殺したんだよ!!」
「ーー!!」
「 ほら、謝れよ。強い俺に盾ついて身の程を知らなかった自身に詫びてみせろよ。さあ、さあさあ、さぁああ!!」
ーーホゴツ ドスッ ドスッ ボゴッ
奴は、私の腹を何度も殴った。
それはそれは嬉しそうに笑いながら何度も何度も殴った。
こんな殺すわけでもなく、ただ痛ぶり楽しむ行為が許されていいのか
ーー 間違っている…間違っているって思いたかった
でも、否定できなかった
「 …… ご … ごめんなさい、私のような弱者があなたさまに盾つくようなことをしてしまい… ごめんなさい…… 本当に…ごめんなさい」
「 そうだよ、やればできるじゃねえか」
奴は、首の拘束を解き、私は地面に叩きつけられた。
「ーー ゲホッ ゲホッ」
「 よしよし、これで丁度いいぐらいに血流も回っただろうしこれで下準備、終了だああ!!」
ーーザグッ
「 ーーあ"あ"あ"あ"ぁ"!!」
奴は落ちていたダガーを拾い、私の心臓に突き刺した。
「 やっぱり新鮮な血を作るなら心拍数を跳ね上げて作った方がいいよなぁ!! 大動脈をぶっ刺したから、作り立て血が取れる取れる!!」
ダガーから滴った血を小瓶に詰めていった。
「 これで最高品質の薬が手に入った。こいつを撒き餌に客をどんどん釣り上げていって、俺は大金持ちになる。俺は、とうとう金の鉱脈を手に入れたんだああ!!」
どんな生き方をすれば、ここまで怪物になれるのか、カーミラの私ですら分からなかった
これから私は、奴の金を稼ぐための奴隷として心臓を刺され、耐えてもまた刺される…
そんな地獄の日々を何年も生きて… いや
ーー"生かされて" いくのか
「 ついでに、攻撃とかして自害されないように四肢と牙をもいでおくかあ。俗に言う人間ダルマってやつだな」
「 ーー!!」
そう言って、奴は私の方へと近づいてきた。
「 や… やめて… 来ないで……」
「 おいおい、盾つかないって言っておいて、言うこと聞いてねえじゃねえか!!だから、
もぐんだよ!! 二度と逆らえないようにするために」
「 いや… 嫌だ……」
身体の制御が全く効かなくなっていた。
行動も… 思考も… 声も… 感情も…
そして意志も…
さっきまで、死んでもいいと覚悟を固めたはずなのに、抑えていたはずの逃走本能で満たされていく。
逃げた結果がこれなのに、また逃げようとしている。私の腐った性根には恐れ入った。
ーー 私はどこまで行っても最低だ
「 まずは、ダガーを握っていた右手から…」
ーーザグッ
刃物が肉を切り裂く音と共に飛んでいったのは私の腕ではなく
ーー" 奴の右腕"だった。
「 イギャァアアアーー 腕が!?俺の腕があ"あ"」
奴は、自身の腕の止血をしようと腕を抑えた。
この一瞬で何が起こったのか私にも理解できなかった。
「 やりやがったなクソ野郎!!誰だ!!」
薄暗い森の中、月光に輝く者の正体は…
ーー 剣を持った" ゼタス"だった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「 ゼタス… てめえがなんでここにいる!!」
私もあの男がここにいるのか分からなかった
行き先も伝えていないはずなのにどうして…
「 なるほどなあ、金の鉱脈が来る前に伝えー」
「 ーーセリアからではありません。私は、
シルヴァから聞いてここに来ました」
「 でもこっちにはこの女もいる、そう簡単に手を出せーーーガハッ!!」
男は、奴が行動を起こすよりも速く奴の胸に剣を突き刺してしまった。
そして、痛みで悶えている奴を他所に男は私の方に駆け寄ってきました。
「 今は、事もことですのでお体を運ばせていただきます。ご容赦をーー」
そう言って、男に私を胸に抱き抱えた。
「 なあ、返せよ!!それは、俺の金鉱脈だ」
「 セリアは物でもありませんし、ましてや
あなたのでもありませんよ… ーー " 弟"」
「 … おと…うと!?」
まさか、奴と男は兄弟だったらしい。
「 兄貴面するのはやめろよ!! 女の後ろに隠れるだけのクズがよお!!」
「 ーーそうですよ。私は、シルヴァの後ろに隠れる卑怯者です。多くの問題もシルヴァに任せ、今日まで生きてきました… ただ、苦しめられている人を見捨てられるほど卑怯になったつもりはありません」
「 はん、卑怯者は黙って後ろの方に引っ込んで ーーーぐはッ!!」
そう言って襲いかかってこようとした瞬間、奴の胸に刺した。
「 あなたが彼女に刺した箇所と同じです。私もシルヴァに刺されたことがあるので凄く痛いのは分かります。ですが、私たちであれば安静にしていれば死ぬことはありません。まだ戦うとなると命の保証をしかねますが」
「 金の鉱脈を奪われて逃げるわけないだろ!!
奪われたなら奪い返すーーそれがこの世界の法だ」
そう言って、奴は私の血を取り出し飲み始めた。
「 マズッーー銀臭くて飲めたもんじゃねえなあ!!ただ、効力は絶大!!見ろよ、完全に治っちまったよ」
奴は私の血を飲んだ瞬間、胸の傷となくなった片腕が再生してしまった。
「 お前が抱えている無能せいでこんなことになってるんだぜ!!ぜひとも感想を聞かせていただきたいね」
「 彼女の力を利用しておいて何を言っているのですか。無能というわりに甘えられるあなたの精神性が凄いとしか評価できませんが」
「 利用できる物を利用してやってるだけだ。俺に盾つくことがどういうことか教えてやる」
ゼタスは私を近場の木に下ろした。
「 ーーあなたこそ、私の家族に手を出したことがどういうことなのか教えてあげます」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
剣と爪が撃ち合う、兄弟同士の骨肉の争い。
戦況は、奴の方が推しているように見えた。
「 おいおい、防いでばかりで全く撃って来ねえじゃねえか!!お前もあの無能と一緒で口だけかあ!!」
そう言って、奴はまた毒を付いて来た。
「 ーー 確かに彼女はあなたよりも弱いです。ですが、セリアには自身より強い敵でも立ち向かう強さがあります。あなたのように影でコソコソする" 小物"ではありません」
「 小物だと… 俺を…… 俺を親父と一緒にする
なあああああ!!」
奴は体を怒りで震わせ、奴は初めて吠えた。
「 親父は一人、無様にくたばった!! おまけに俺の二の舞をするなと負け犬らしいセリフまで吐き捨ててなあ!!だから、最も大切な金を集めた。俺は親父のようにはーー」
「 ーー 今のあなたは父の後悔した人生そのものてす!!父の後悔は、大金が手に入らなかったことではなく孤独だったこと。金や身分…… これらは、どれだけあったとしても一人では成立しない物です。それに気づいた父が同じになるなと私たちに注告したんです。ーーあなたも父のように一人になるのが怖いからこんなに必死に金を集めているんじゃないのですか!!」
「 ーー黙れ、黙れ!!俺は間違っていない!!
金はこの世界の武器そのもの!! ーー俺の金を奪うなああああああ!!!」
奴の憤怒に満ちた乱撃が男の剣をボロボロにしていった。
だが、男も奴の猛攻を剣で対処し、弾く勢いで奴の腕を血まみれに
ーーお互い一歩も引かぬ接戦だった
「 腕が傷ついて痛いなあ… まあ、金鉱脈の血でまた治せばいいけどなあ!!」
そう言って、奴は木陰で倒れる私の方へと対照を変え、突っ込んできた。
奴は、また私の血を… 嫌、腕でも捕食して、また回復するつもりだ。
これ以上は、男の体力がもたない。
なら、私にできることはただ一つだけだ…
ーーブチィブジイッ
ーー自身の腕を千切って投げるだけだ
動物は、目の前に餌があるとついつい見てしまう習性がある。特に、飯を取るのが大変な肉食獣なら尚更だ。
オオカミである奴の視線を投げた腕に引き寄せた。
ーー その瞬間を男は逃さなかった
鈍い音ともに奴の太い右腕が斬り落とした。
ーーだが、実際にやられたのはゼタスの方だ
奴には痛覚が存在しないのか斬られた直後、男の肩に噛みついたのだ。
男の肩からは、滝のように大量の血を流し倒れてしまった。
「 なあゼタス、一言でいうとお前は無様だ。今の今まで女に隠れていた野郎が正義の味方きどりで出てきたうえにこんな醜態まで晒す。弟として情けねえよこんな姿はさあ!!」
「 ーーゴホッ… 醜態… 私にとっては誉れです。昔みたいにシルヴァの後ろに隠れず、戦いました。何もしない方が醜態そのものです…」
「 あっそ… まあ、心臓を潰されれば醜態だろうと誉れだろうと誰にも見られることなく死ぬだろうがな」
奴の言葉から殺意が伝わってきた。
ーートドメを刺すつもりだ
「 ーー逃げて!!ゼタス」
今更、言っても意味がないと頭で分かっていた…
でも、私は男の名前を口にしていた。
「 死ね、ゼタスーーー ギャハ… ギャハ ギャハ
ギャハハハハハハハハハハハハ!!!」
奴の動きが止まり、突然不気味に笑い出した
奴の情緒が壊れていたから嬉しさで攻撃をやめたと思った。
ーーが、違った…
「 なんだこれ… ギヤハ 頭の中に笑い声が… 響いてくる… 」
奴自身も理解している感じではなかった。、
「 まさか、ギヤハ 金鉱脈の誓約か … 」
まさかとは思ったが、誓約は銃ではなく銀の弾丸の方に刻まれる。
それが、私の血と混ざり飲んだ奴にも誓約が移ったのかもしれない。
ーーそして、人であるゼタスを噛み、誓約を破ったペナルティを受けたのかもしれない。
「 ーー くそッ、 ギヤハ 頭が… 割れる… 痛い痛いーーあっ…ああっ……あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
奴は、自身で頭を掻きむしり、頭を裂きはじめた。
そして、喉がかれるほどの悲鳴と共に奴は 絶命した。
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