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酒の直送が止まっているであろう、例の果樹園に到着した。
事情を伺ってみると、どうもこのあたりに住む野生のオオカミが果樹園の果物を荒らしているのが原因らしい。
でも、オオカミが食べもしない果物をわざわざ荒らしに来るのかという疑問があった。
その認識は、果樹園の人たちにもあったらしいのだが、今実際に起こっているから現実として受け入れざるおえなかったらしい。
ゼタスは険しい顔をしていた。
「 なるほど… ちなみにオオカミの被害報告を聞いた者はいるか」
「 はい… 近隣の村で何人かの者がオオカミに襲われたと聞き及んでいます」
「 そうか… オオカミの数が増えすぎて何匹かのオオカミが山から降りてきたのか… 」
ゼタスは果樹園の者と話し合いこの状況を見るに、まあ妥当と言える答えに落ち着いた
「 ーーとりあえず、私とシルヴァで何匹か数を減らしてみる。他の者たちは、森の周辺でオオカミが村に行かないように抑えてくれ」
「 分かりました、旦那」
元気のいい返事が果樹園の者たちから聞こえてきた。
どうやら、あの男とシルヴァでこの問題を解決するようだった。
「 お待ちください、ゼタス様。この件、セリアにも同行してもらいましょう」
「 ーー何を言ってるんだシルヴァ!!私は
お前の誓約のせいでまともに戦えないんだぞ」
シルヴァの発案に対して、たまらず、私は声を上げてしまった。
私は、現在進行形カーミラではあるが誓約のせいでまともに戦うことができない。
それに私は、オオカミにあまりいい思い出がないから尚更気が乗らない。
「 ええ、そうですね… ですが私がかけたのは
" 人を襲ったら死ぬ"誓約であって、オオカミには適用されません」
ーーちっ、気が付いていたか
彼女の言うとおり、私の誓約は対象が人のみの誓約だ。だから、オオカミを倒したとしても私が死ぬことはまずない。
「 それに彼女は戦力になります。ーーー過去に戦った私が言います」
「ーー何!?シルヴァさんがあそこまで言うほど強いのか、この子」
まずい、シルヴァは私が心の底から嫌いなのか今回のオオカミ退治に私を参加するように焚きつけ始めた。
強かったのは、あくまで昔の話だ。今の私は、人畜無害な戦闘センスゼロの傷物カーミラだ。そんな奴にやらせるなんて見当違いもいい所だ。
だが、果樹園の人たちはそうではないらしい
「 ーー頼みます、セリアさま」
「ーー村と果樹園を護ってください」
「ーーこのままだとシル ゴホッー オオカミから私たちをお救いください」
一瞬、知人の名前が聞こえた気がしたが、ここまで期待されて応えてあげたい気持ちはある… だが…
そうしていると後ろからあの男が優しく肩を叩いてきた。
「 セリアが好きに決めてください、コイツらは色々と言っていますが、この問題は私たちの問題であってセリアは無関係な話です」
この男の口から出たとは思えないような私を気づかってくれた言葉だった。
「 それに私はあなたを護ると約束しました。
ですので、もしオオカミにやられたと気になさらず、あなたの守護霊としてあなたをお護りします」
ーー怖い怖い、本人的には少しロマンチックに言っているのかもしれないが、要するに幽霊になっても私の後をつけてくるということじゃないか。
それに、この男が弱いのか…?
あれだけ威勢のいいことを言っておいて弱いのか… この男は…
ーーまずい…
おそらくだが、男が死んでもシルヴァだけは生き残る。
もし私が行かずに男が死ねば、男の霊と逆恨みシルヴァに地獄の果てまで追われることになるということ…
「 ーー分かった… 行くよ、私も 」
果樹園の男たちは歓声を上げ始めた。
まったく、私のような傷物に何を期待しているのやら…
私は渋々オオカミ退治に参加することとなる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私たちは果樹園を荒らすオオカミを退治すべく、森の中へと入った。
「 すみませんセリア、私が急かすような真似をしてしまって…」
と男は私が気を使って付いて来たと思っているが、コイツが死ぬかもしれないって言うから付いて来ただけだ。
「 それにしてもナイフだけで大丈夫ですか?」
と男は心配して訪ねて来た。
「 私はこれぐらいしか扱えないんだ…」
実際、私は力が弱くて剣や斧などの重い武器を持つことができない。
「 やはり、村で待っていた方が…」
ーー私だってそうしたいが、アンタが死なれたら困るからいるんだよ " ここ"に…
この男に言いたいことはいろいろとあるのだが、今は寛容な心で耐え凌ごう…
「 大丈夫だ、ナイフの扱いにも慣れてるし、オオカミぐらいなら倒せる」
森での生活も決して短くもないし、オオカミぐらいなら過去に仕留めたことがある
ーーいい思い出とは言えなかったが…
それにしても一向にオオカミの姿が見えない
増えすぎているとか言う物だから森中に徘徊しているものかと思っていた。
「 本当にオオカミが荒らしたのですかね…」
森をいくら見渡してもオオカミの気配が全く感じず、平穏そのものだった。
果樹園を襲ったのが、実はシカかクマだったという方がまだ可能性がある。
「 いいえ、今回の事件はオオカミで間違いないと思います」
それを断言して言ったのはシルヴァだった。
「 これを見てください」
シルヴァが指さしたのは動物の糞だった。
「 これはオオカミの糞です」
確かにあまり気にしていなかったが、似たような物がそこら中に転がっていた。
「 オオカミは縄張りを主張する際に自身の糞で主張する個体います。そして、糞が果樹園の方にも転がっているのを確認しました…」
つまり、オオカミたちがあの果樹園を自身の縄張りだと勝手に主張し、また果樹園を襲いに来る可能性があるという事か…
そして私はある事にも気づいてしまった
「 だったら、誰か果樹園を見張らせればいいだけなんじゃないか?」
「ーーいえ、あの無能たちが夜になったら酒を飲んで寝てしまうので無理です」
「ーー 禁酒させろよ!!仕事に支障がガッツリ出てんじゃねえか!」
思わずツッコミを入れてしまった。
「 ーー私だってあの無能どもから酒を取り上げたいんですよ!!… しかし、最初の時の契約だから仕方なく…」
珍しくシルヴァがとても悔しそうな顔をしていた。
なるほど、シルヴァは一度決めたルールは絶対に曲げない性格らしい。
「 だったら、他の者とかを雇って代わりに見張らせればーー」
「 ーーゼタス様の人望的に無理です」
シルヴァは主人が隣にいるにも関わらず、バッサリと言った。
男の評判が良くないのは知っていたが、こんな所でも支障が出るとは…
横で聞いていたゼタスも心に傷でも負ったいたが放っておこう。
「 森に入ってオオカミを片付けてしまった方が時間もかかりませんし、忙しい私たちとしても都合がいいんです」
シルヴァらしい単純明快な応えだった。
まあ、シルヴァがいればオオカミを掃討するのも容易いではあると思う。
今まで心の治療に専念していたゼタスから作成の変更のためある提案をしてきた。
「 ……闇雲に探しても見つからなそうですし、とりあえず罠だけ張って帰りますか」
という内容だった。
私もこの意見には賛成だった。
戦わないに越したこともないし、罠張っていた方が楽だからだ。
「 とりあえず、馬車に積んである罠を持ってきます」
「 分かりました… 私は、オオカミがいないかもう少し確認してきます」
そう言われて、シルヴァは一人で森の奥へ行ってしまった。
「 ーー頼んだよ、シルヴァ」
男はそう言って、彼女の別行動を許した。
なにをそこまで彼女をやる気にさせるか分からないが、内なるバーサーカーが闘いほしさで暴れているようだった。
「 ーー私たちも動きましょうか、セリア」
そう言い、私たちも馬車へ向かうはずだった
『 ーー" 今だ、やれ"』
ーー先ほどまで感じなかった視線が森のあちこちから唐突に現れた。
ーー 数は… 十…… いや …
「 ねえ…私たちってオオカミを何匹狩るつもりだった…」
「 この森ぐらいだと八匹ぐらいかな、少し多い気もするけど」
「 そう… だったら、その数見積もり直した方がいいよ」
次の瞬間、
ーー 五十を超えるオオカミが姿を現した。
どのオオカミも私たちを殺そうとしているのか知らないが、全身の体毛逆立てて、目を血走らさせていた。
ーー私たちは、囲まれたようだった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オオカミ退治のためにきた私たちだったが、たった今理性も知性もなさそうオオカミの大群に敵意むぎだしで襲われていた。
「 ーーバウバウ ガルルアァーーッ」
「 ーーセリア、後ろだあ!!」
「ーークッ!!」
男の呼びかけでなんとか対応できたが、あたり一面が敵だらけという状況であることには変わらない
今の所、何匹か仕留めているがそれでもまだ多くいる。
男も思っていたより剣の腕が強かったが、この状況を打開できるほどの実力はない。
この面子の中で最高戦力であるシルヴァもどこかへ行ってしまって、絶対絶命だった。
それに、このオオカミたちが強い
五十匹もいたのだが、一斉に襲わずに一体一体を敵である私たちにぶつけて、体力を消耗させる作戦だった。
おまけに背中をみせれば、容赦なく別個体が攻撃してくる。まさに息をつく間もあたえない連携の取れた戦略。
この戦場は、オオカミたちが支配していた。
とりあえず今は、シルヴァとの合流こそが生存率を跳ね上げる。過去に私を倒したシルヴァなら… ーーだが、
ーー パァーン パァン
どこからともなく聴こえてくる銃声を聞き、あちらからすぐに合流できないと悟った。
おそらくこの銃声は、シルヴァ持っていた銃だ。
しかも、さっきから銃声が鳴り止まないあたり、私たちと同じようにオオカミに襲われていると思う。
だとすると、助けに来るのが5分…10分…いや、場合によっては来ない可能性だって…
嫌な考えが頭の中を駆け巡り、今の状況に絶望する。
ーーガルルル
ーーバウバウッバウッ
ーーウォン ウォン ワウォーン
オオカミたちは吠えて、鳴き、噛みついてまた鳴く、鳴いて鳴いて鳴いて… " 鳴いて"
ーー " 泣いてばかりだな"… わたし…
私は、あの男やシルヴァのように護りたい者がいない
…… いや、いなくなった
だから、護りたいのは残された私の体だけ…
この世で一番に護りたいのは、結局自分だ。
自分に危険が生じれば、生存本能で窮地を脱しようとするが、それ以外だと助けようと体が動きもしない。
私だって、そんな者だけにはなりたくないと思うが現実問題そうだった。
私が泣きそうになっているのだって、自分が死にそうなっているからだ…
自身の持っているナイフでオオカミたちを切れば切るほど血が付着し、切れ味をどんどん鈍っていく。
そしてこのナイフで切れなくなったその時…
ーー私の死が確定する。
自分も、自分以外も護れないのは…
ーー 全て、私が弱いからだ
「 でも… 生きなきゃ… 生きなきゃいけない…」
どれだけ私が弱くて…惨めでも…あの子達が生かしてくれた私の体を誰でもない
ーーー 私、自身が護る
今、シルヴァが来てくれないなら私の方から向かえばいい。
ーー幸い、シルヴァが銃を撃ってるから方向は分かる
私がその方向に向かえば…おそらく、
私は、シルヴァの元へ逃げるため、オオカミの猛攻撃を掻い潜り、なんとかオオカミの包囲網から抜け出せた。
あとは、走れば……
もつれる足で、前へ前へと動かし逃げた。
ーーバタッ
でも、私はこけた。もつれる足で逃げようとしたから文字の通りのことをしでかした。
ーー私は神にすら見放されたのだ
自分だけ助かろうと… 恣意のままに生き残ろうとした者に神からの慈悲が消失し…悪者相応の鉄槌が降ったのだ…
ああ、逃げた私を追いかけてオオカミたちが一斉にやってくる。
追いつかれたら、おそらく私は助からない。
肉が噛みちぎられ、血を吹き出し、骨が砕ける音を聞きなら死ぬのだろう…
目から溢れてくる涙を拭っても拭い切れない
せっかく、あの子達が生かしてくれたのに…
…… ごめんなさい
『 ガアァァァァァルルルルルルーーー!!!』
突然、一匹のオオカミが咆哮を上げた
その声量は空気が振るわせ、地を揺らし、オオカミたちの動きを止めた。
ーー私は、声する方へ目をやると
そこには、手足から獣の特有の体毛が生え、ナイフのような爪を鋭く伸ばし、人間にしては異形の姿となったーー "ゼタス"だった
男は、手足以外は人間の姿ではあったが、目だけはあのオオカミと同じように充血し、正気なのか分からなかった。
そうすると、私の方に何か大きさ物が勢いよく跳んできた。
それは、男が倒したであろうオオカミの死骸だった
男は、大岩ほどあるオオカミたちを投げ飛ばし、私を追っていたオオカミたちにぶつけて、撃破していった。
オオカミも負けじと、束になって男に飛びかかったが持っていた剣でいとも簡単に真っ二つになった。
次々とやられていく仲間たちの姿を見て、オオカミたちは逃げ出すように森の奥へと消えていった。
「 ーー ハア… ハア…」
オオカミたちを追い払い窮地を脱したが、男は呼吸は酷く荒かった。
「 ……セリア、大丈夫だったかい?」
そう言っていつもどおりの男に戻り、私の所へ駆け寄ってきてくれた。 ……でも、
ーー私にとっては" 不気味"だった
今の姿が人と違うからではない…
男から生える体毛の質を見るにオオカミだ…
人のようにフォルムとオオカミが組み合わさったような怪物……
そして、今まで感じていた違和感……
この男が初めて私を助けた時の変な恐怖と声から伝わる殺意ーー
こいつ… いや この男は私の家を燃やし大切なものを奪った奴と同じ" 人狼"だったからだ
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私にも大切なものがあった…
昔、シルヴァとの闘いに敗れ、元いた城を捨てる羽目になった後の話だ。
私は新しい拠点を探すために何年も旅をしてきた。
そして、やっと良さそうな座敷を見つけることができたがオオコウモリたちが住み着いていた。
最初、襲われたりもしたのだが、弱っていたこともあって私でも倒せそうだった。
しかし、トドメ刺そうと思った瞬間、私の方が殺すことに怖気付いてしまい、住み込みで雇ってもらうことで手を打った。
そして、何年もオオコウモリたちと生活していくうちに家族ような関係になり、コウモリたちに名前をつけた。
黒くてシュッとしたコウモリを" ログ"、
白くて美しい方を" シロ"という名前にした。
今まで一人で生きてきた私ととって、家族ような存在と一緒に過ごせたのは本当に嬉しかったか。
そして、人生の宝がオオコウモリである彼らになっていった。
ーーしかし、終わりが唐突に訪れた
何者かが屋敷に侵入していたのだ…
硬い毛で体が覆われ、切れた片方の耳が特徴的な、大きな大きなオオカミだった。
最初は屋敷に迷い込んでしまっただけだと思っていた…
ーーでも、違った…
「 おぉ、いるじゃんいるじゃんーー 金の鉱脈」
唐突のオオカミがしゃべり出した。
ねっとりとした濁声… 私好みのしゃべり方ではないオオカミだった。
それに、私を目当てに来たようだった…
「 ーーにしても、ここホコリっぽくて吐きそうだけど、掃除とかしてる?」
勝手に屋敷に入り込んでおいて、どの立場で物を言ってるんだと思った。
「 ーー 気に入らないのでしたら、お帰りなられてもよろしいのですよ…」
「 あ、うんうん…帰る帰る、帰りますよーー 」
むかつく言い方ではあったが意外にすんなりと帰ってくれるようだった…
一方的にオオカミの命を奪うようなことは私でもしたくない……
「 あ!そうそう… 害獣駆除代 ……払ってくよ」
ーーードサッ
「 ーーッ ………うそ…でしょ……」
……嘘だ嘘だ嘘だ、" 嘘だ"ーー!!!
ーー私の目の前に転がされたのは
所々に噛まれたような痕に、ボロボロにむしられた羽根… 今にも飛び出そうな内臓…
それは、
無惨に噛み殺されたログの死骸がだった…
私は今起こった事を受け止めきれなかった…
ーー が、一つだけ理解したことがあった。
目の前にいる奴が私の宝ものを傷つけたということだ。
「ーーー支払いはお前自身!! 稼がせてもらうぜ、金鉱脈!!!」
「 殺すぞ、野犬があぁぁぁぁーーー!!!」
隠し持っていたナイフであのオオカミに同じ傷をつけてやろうと私は奴に飛びかかった
この時、私は奴を殺す事で頭がいっぱいになり、奴に一撃をくわえてやる事しかなかった
ーーだから、もう一体の刺客の存在に気づけなかった
私は、別個体のオオカミに首元を噛まれてしまった。
「 ーーガルルル ガウッ」
「 おお!! ないすないす、よくやってくれた!!
ーーあと、その女の首を噛み切るなよ。俺の愛しい愛しい金の鉱脈ちゃんなんだからな」
私は奴の飼い慣らしているオオカミに首を噛まれていたせいでまともに動くこともできず、捕かまったウサギのようになった。
悔しくて自信の顎に力を入れても、自身の口内を傷つけるだけだった。
「 あと、忘れないうちに言っておくけど害獣駆除の追加サービスをやっておいたから」
「 追加… サービス…… 一体なに… ーー!?」
ーーー私は唖然とした
私は、奴の言葉の意味が分からないかったがすぐに理解した。
奥の方に明かりが灯っていた…
ーー屋敷にはランプもないのに
……奴は、私たちの屋敷に火を放っていた
「 害獣がまた戻ってこないように巣はしっかりと壊さないとね。ついでにホコリの掃除にもなるしよかったじゃん」
「 お前だけは、絶対殺すーーー」
「 ーー殺せるのかい?本当に… 」
私がこんな状態だから勝利を確信して言ったのだと思っていた。でも、違った…
「お前、カーミラのくせになぜか人を襲わず、そこらにいるキモい生物の血を飲んでたってことはよお、人を襲えないってことじゃないだろ?」
「 ーー それがどうした」
「 今は、いかついオオカミの姿だが、本来の俺は人間だ」
「 ーーなッ!? …そんな嘘、誰が」
「 ーー疑うなら刺してごらんよ。まあ、その状態で刺せるか知らないけどねぇ!!」
奴は、どこまでも私の精神を逆撫でしてきた
嘘だと思いたかったがおそらく本当だ。 奴は、異常なまでに金への執着があった。
ただオオカミだったら金の価値を知っているはずもないのに、奴はそれを知っていた。
奴は、人でありながらオオカミに変身し、欲を満たすためだけに動く怪物…… 人狼なんだと理解した。
悔しかったが、本来は人間の奴を攻撃をすれば、誓約のペナルティで私が死ぬ。
仲間を殺され屋敷まで燃やされたのに、私は我が身を惜しんで攻撃することできなかった
ーーくやしい… くやしい… " 悔しい"
「 ーーお涙の反省会タイムは終わったかい?そろそろ、お前を連れて行きたいんだけど?」
奴は、これ以上なにさせたかったか分からなかったが、連れて行かれたもう助からないことだけは分かった。
私は心の底から、もうダメだと思っていた…
だが、甲高いコウモリの鳴き声で憔悴しきった意識が引き戻された。
「ーーキイィィィィィィィ」
屋敷に住んでいたもう一匹のオオコウモリシロが助けにきてくれた。
シロは、私の首を咥えていたオオカミにめがけて体当たりをした。
オオカミが怯み、思わず顎の力を緩まった。
その瞬間を逃さず、私はその場を抜け出しオオカミの拘束から解放された。
後は、シロと逃げればよいと思って後ろを振り返った。
でも、間に合わなかった…
シロは、奴に爪で引き裂かれていた。
「 ああ… 糞しか生まない害獣の分際で俺の邪魔をしやがってさぁああ!!」
奴は、まだ息のあるシロを前足で殴り飛ばした。
「 しかも、俺のオオカミを殺しやがって!!もっと有効利用できたのによお」
奴は、自身の利益しか考えず、自身以外の存在は金を稼ぐための道具にしか思っていないことが分かった。
「 まあ、金の鉱脈は手に入ったし、必要経費だったと割り切るか」
そう言うと、奴は私の方へと首をぐるんと向きを変えて、私を見てきた。
「キィィ…ギィィィーー!!」
でも、シロは最後まで諦めなかった。
綺麗だった白い体も血で真っ赤に染まってもなお、奴に立ち向かっていた。
「 何邪魔してんだ!!害獣がぁぁあああーー!!」
奴は地面や壁に何度も体をぶつけてが、
シロを自身の体から引き離そうとした。
でも、シロはどれだけ傷つけられ内臓が損傷したとしても絶対に離そうとしなかった。
私は、我が身可愛さで怖気づいた自身が恥ずかしくなった。
シロだって、強いわけでもない。なのに、自身より強い相手に立ち向かっていた。
それなのに、最強た誓約一つで戦うことを諦めている自身が許せなかった。
ーー私の戦う意思が固まった。
例え、攻撃できずに死んだとしてここで仲間と死ねるなら本望だと本気で思えた。
私は、持っていたナイフを握りしめて奴に立ち向かおうとした。
『 ーー来ちゃダメ!!』
私は、シロに止められた。
直接言われたわけではなかったが、シロから逃げろと脳に語りかけられたようだった。
『 今、二人で戦っても無駄に死ぬだけ!!だったら、あなたが逃げてログの敵を撃って!!』
私はシロからそう受け取った。
本当にそんなことを言っていたのか分からなかった、私は彼女の目を見て判断した。
こんな状況にも関わらず、まるで子供を想う母のような優しい目だった。
私は優しい目ができる彼女を言葉に甘えて逃げた。
みっともなく、私が助かるために一人で……
ーーグシャ
シロの肉が潰れたであろう音が鳴っていたが振り向かず、涙を殺して逃げた。
私はいつか二人の敵である" 奴"を撃つために
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
*お約束した時間内に書ききれず、申し訳ありません。もう1週間後には驚くべき展開に心打たれるように精神誠意の努力いたします。書く者としてあるまじき失態。このたびは誠に申し訳ございませんでした。
作者:カジキ
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