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奴は、誓約のペナルティーで頭から黒く濁った血を流し…… 倒れた。
私は奴が死んだかどうか確認するよりゼタスの方へ急いだ。
先程から全く動いていないのだ。
私は傷つく体を這いずらせ、ゼタスの所へ向かった。
ゼタスの所に近づき、息があるのを確認することができた。
ーー だが呼吸が浅い
それに出血も酷く、決していい状態ではない
このままだと、この男は死んでしまう
ーーでも、私なら助けられる
私は胸から滴る血を手に集め口に含んだ
私の血を飲ませればおそらく助かる。皮肉にも奴が実証している。
飲ませれば、誓約で苦労するかもしれない…
ーーだが、私はゼタスに生きていてほしかった
私がゼタスに" しよう"とした時、
「 ーーセリア!?大丈夫ですか!!」
突然体が起き上がり、誤って口に含めた血を飲んでしまった。
「 ゲホッ ゲホッ」
「 腕がありませんが… 治るのですか?」
「は、はい… 治せますよ。体の再生力でしばらく腕を縫い付ければ完治します」
「そうですか、よかった…本当に良かったです。ですが、どうして私に相談していただけなかったのですか… 」
ーー当然の質問だった
ゼタスは、私がいなくなって不安だったに違いない。
「 ーーあなたに死ぬ姿を見せられなかったからです」
私は、本当に死ぬ気だった。
もし、私が戦えばよくて相打ち、最悪私だけ死んで奴が生き残ることだってあった。
そんな所を見せれば、ゼタスは自身を責める
そして劣等感に苛まれ、奴と同じ怪物になってしまう可能性があった。
これ以上、二人に迷惑をかけられなかった
「 だから、私は二人の迷惑を考えてーー」
「 ーー迷惑をかけてくださいよ」
一瞬、この男の言葉を疑った。
「 あなたは優しいから相談しにくいかもしれませんが、私は父のように死んでほしくないんです。父の死は私にとって後悔そのものでした。父に死んでほしくなかったのに、何もしなかった。だから、私は助ける者でありたいと思ったんです。例え、迷惑だと思っても私たちに言ってください。私たちは迷惑だと思いませんから!!」
「 でも、あなたが戦えば劣等感で…」
「 シルヴァがいます!!」
「 …… 」
かっこいいセリフを言っておきながら、結局シルヴァ頼りなことに言葉を失った。
「 シルヴァは私よりも強いですから、仮に理性を失っても彼女がどうにかしてくれます」
「 でも、シルヴァに迷惑がーー」
「 ーー その分、シルヴァを撫でます」
シルヴァを犬かなんかと勘違いしているのか、労働対価に合わないことを言っている
「 あなたは、最低です。シルヴァに迷惑をかけて生きて… あなたは" 卑怯者"です」
ーーだが、本当に最低なのは私だ
何度もゼタスに助けられているのに、感謝よりも先に非難を口にしている。
私ができなかった事をしろと言われ、思ってもいないことを口にしてしまった。
しかし、ゼタスはニッコリと笑いながら優しい声で語ってくれた。
「 そうですよ、私は卑怯者です。肝心なことは全てシルヴァ頼みです。それでも私は生きたいんです。多くの人と関わり、多くの人に迷惑をかけ、多くの人を助ける、父ができなかった生き方を私はしたい。だから、一緒に生きましょう。私の見える人全てがいつまでも笑っていてほしいです。だから、あなたも笑っていてほしいんです」
私は、不意に涙が溢れた。
今まで迷惑かけてばかりで、人と関わらないように遠ざけることが恩返しだと思っていた。
でも、男がそれを否定してくれた。
ーー 私も一緒だから生きよう
孤独だった私にとって、この言葉だけで心を突き動かすには十分すぎた。
「 私… 卑怯者でも… カーミラでも… 生きていていいですか…」
「 ーーむしろ、生き続けてください。皆さんと幸せに生きるのが私の生きる意味ですから」
その場で目に一杯涙を溜めて泣いた。
誰かのためにではなく、自分のために生きてほしいと言ってくれたこの男の前で年甲斐もなく泣いてしまった。
ーー 私の新しい家族がこの男なんだと
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私たちは、奴を倒し森を出た。
人狼の治癒力が思ったより高く、動けない私をゼタスがおぶって帰った。
「 おかえりなさいませ、ゼタス様」
屋敷に戻ると、シルヴァが出迎えてくれた。
話を聞いてみると、ゼタスと違う所を探して帰ってきたばかりらしい。
「 それとおかえりなさい吸血鬼… あなたの言う目的は果たせたのですか」
「 うん、シルヴァのおかげで助かりました。ありがとうございます」
「 …… そう。それより銃返してもらってもいいですか」
「 あれって、私にくれたんじゃないんですか」
「 ーー そんなわけないじゃないですか、早く返していただけませんか」
まずい…奴に銃を噛み壊されて、とてもじゃないけど返せるような状態ではない。
「 ええっと… すみません、壊しました」
「 そうですか… 明日から仕事量を増やしますので覚悟してください」
「 ええ…… 私の腕こうなっているんだけど… 」
シルヴァに取れた腕を見せつけるように言った。
「 あの銃、結構な値段しましたので、それ相応働いて返してください」
そう言い残すとシルヴァはどこかへ行ってしまった。
「 シルヴァは、相変わらずですね」
「 ああ言っていますが、結構セリアのことを心配していたんですよ」
「 うん、知ってます」
助ける義理もないのに大事な銃を渡してくれたり、私を探したりもしてくれた。
だから、私はこの二人…
ゼタスとシルヴァがいるこの屋敷が私の新しい居場所であり
ーーー 私の" 家族"だ
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