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 外からひときわ大きな打球音が聞こえた。  そこに小さな歓声が続く。ゆらりとなびくカーテンも空の色もさっきまでと何も変わらなくて、僕はなぜか少し腹が立った。  扉が閉まると彼女は消えていた。  何の前触れも演出もなく、まるでさっきまでのやり取りが夢だったかと疑うほど静かにいなくなっていた。  彼女に関する記憶はまだ残っている。  タイムラグがあるのだろうか。夜になる頃には失くなっているのかもしれない。 「大事なもの忘れてんじゃん」  机の上には2Bと100Bが身を寄せ合うように並んでいる。  回収し忘れたのか、どうせ記憶を失うから大丈夫と踏んだのか。僕なら任せても安心、ということなら信頼されすぎな気がするけれど。  僕は100Bを拾い上げる。鉛筆の形をした未来を縦に持ち、机の端に空いたいびつな形の穴に細い先端を差し込む。  指を離すと、100Bの鉛筆は垂直に吸い込まれていった。  完全に無くなったことを見届けてから僕は白いキューブ状の消しゴムで無限ゴミ箱をこする。天板は綺麗な状態に戻った。 「これで大丈夫か」  息をつき、僕はキューブを持って立ちあがる。  音を立てて動いた椅子を戻すこともせず、彼女の歩いた道をなぞるように窓のほうへと向かった。鮮やかな橙色だった空は少し暗くなってきている。  窓際に立って、僕は腕を大きく振りかぶった。  この行動に意味があるのかは僕にもわからない。  けれど未来というのは現在の些細な行動の変化で、大きく変わることもあるという。  それなら。 「──変われ」  思いきり腕を振り下ろして、握っていた消しゴムを投げた。  夜の端っこめがけて飛んでいった白色のキューブは吸い込まれるように小さくなっていきすぐに見えなくなる。  穏やかな風が頬を撫でた。空はゆっくりと黒に蝕まれていく。  終わりに向かう今日を眺めながら、僕はただ祈り続けた。 (了)
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