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「日本って落とし物が戻ってくる確率が世界でもトップレベルなんだって。よかった、日本で落として」
「今回は奪い返しにきた感じだけど」
「だって大事なものだもん」
「大事なもんほど落としちゃうのなんでだろうな」
前の席の椅子に後ろ向きで座った黒部さんは唇を尖らせた。
僕の机の天板には100Bの鉛筆が乗っている。この間、教室の隅っこに落ちていたのを僕が拾ったのだ。
「けど100Bって何作ってんの。未来人ヒマかよ」
「人って限界があるものは越えたくなるらしいよ」
この鉛筆を拾ったときはジョークグッズか何かかと思った。世界でも鉛筆の硬度は12Bくらいまでしかないはずなのに、100Bって。
けれど試しに机の端に小さな丸を描いてみて、その異質さにはすぐに気付いた。
鉛筆の先がかつてないほど柔らかく削れて描く黒の軌跡。
丸を塗り潰すと、まるで元々そこには何もなかったかのように真っ黒に染まった。その黒は漆黒よりも深く、暗黒よりも暗い。
理論ではなく感覚で理解した。
これが、100B。
「けど、黒いだけじゃないよな」
「そうね。この時代じゃ鉛筆の『B』は『Black』の頭文字だけど、この鉛筆の『B』はもうひとつ意味があるの」
やはり黒部さんは知っているようだ。まあ持ち主だから当然か。
「──『Burrow』。『穴』って意味ね」
彼女の説明に僕は頷いた。
この100Bの異常さは黒色の濃度だけじゃない。
あの日、僕は机の端に描いた黒丸に触れた。
すると僕の指先はするりと黒丸の中に吸い込まれていったのだ。
まるで小さな穴だった。元々何もなかったかのように真っ黒だった円形には何もなくなっていた。
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