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「あーすっきりした」
両腕を上にぐっと伸ばして、黒部さんは大きく伸びをした。
見慣れた制服を纏う彼女に他のクラスメイトとの違いは見当たらない。それでも僕は彼女が未来から来たという話を受け入れていた。
彼女の表情は演技には見えなかった。
「ずっと誰かにこの話聞いてもらいたかったんだ」
「なんで僕に」
「たまたまだよ。誰でもよかったけど、たまたま百田くんが100Bを拾っちゃったから」
「そりゃ運がよかったな」
「不運かもしれないよ?」
「不運?」
僕が訊き返すと黒部さんは両腕を下ろして頷いた。
こほん、とひとつ咳払いをする。
「この話を聞いてしまった百田くんは今後未来警察にその身を狙われることになります」
「いやなんてことしてくれんだ」
「あはは、冗談だって。ちゃんと対策はしてあるから大丈夫。明日にはぜんぶ忘れてるよ」
「ぜんぶ、って」
「ぜんぶはぜんぶだよ」
ぜんぶ、と彼女はもう一度繰り返した。
ぜんぶ、と僕は頭の中にあるものを並べる。
「100Bのことも、未来のことも、私のことも。私が未来に帰ればみんなの中の私に関する記憶はぜんぶなくなる。そういう風にできてるの」
未来に帰る。
彼女の語った今なお終わりゆく世界に再び身を投じるというわけだ。
それはつまり。
「そんな顔しないでよ」
黒部さんの声が頭上に聞こえて顔を上げた。いつの間にか俯いてしまっていたらしい。
彼女は燃えるような夕陽をその身に浴びながら、こちらを見つめて微笑んでいる。
「上京した若者が急に田舎に帰ることになるなんてよくあることでしょ?」
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