雨上がりの空に

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雨上がりの空に

(ああ、やっぱりね……)  大雨の中、職場でもある日野のハヤマ特約店へ向かおうとしていた時だ。  立川駅に到着して電光掲示板を見ると、この雨の影響なのかダイヤは大幅に乱れ、このままだと一番最初のレッスンに間に合いそうにない。  中央線下りホームで私はスマホを取り出し、店に電話を入れ、遅れる旨を受付事務の中村さんに伝えた。 『わかりました。気を付けてお越し下さいね』  運がいいのか、通話終了のアイコンをタップしてすぐに電車は到着し、これならギリギリ間に合うかっていうタイミング。  日野駅で降り、傘をさして急ぎ足で職場へ向かっている途中、大きな水溜まりにズブリと嵌り、靴はビショビショ、スカートに水飛沫が大量にが掛かってしまった。 「うわっ……ホントにサイアク……」  レインコートを着てくれば良かった、と後悔しつつも、歩道の端に寄り、ハンカチを取り出して濡れたスカートをササっと拭きながら、職場へ向かった。  焦っていると、ロクな事が無いというのは私だって分かっている。  だけど、大雨でもレインコートとレインシューズを着用するのは、まだ抵抗があるんだ……。 ****  最初のレッスン時間よりも数分遅れで店に到着すると、生徒さんは既にレッスン室の前で待っていた。 「遅くなってしまってすみません……」  二人に言うように、それぞれ会釈をする。  最初の生徒さんは、定年を迎えてからピアノを習い始めた女性、小山さん。 「いえ、この雨で来るのも大変でしたね。音羽先生、お洋服が随分濡れてますけど、風邪を引かないように気を付けて下さいね」 「お気遣いありがとうございます。ではレッスンを始めましょうか」 「はい、よろしくお願いします」  私の受け持つ大人の生徒さんは、小山さんを始め穏やかな人ばかりだ。  他の講師が受け持つ生徒さんの中には、たとえ交通事情だとしても、遅れると怒る人もいると聞く。  重厚な扉を開けて小山さんを招き入れ、私は濡れた靴とスカートを気にしながらもレッスンを始めた。
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