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通りに出ると、すっかり雨は止み、茜色に染まりそうな雲の隙間から青空が覗いている。
足元を見ると、すぐ側に浮かんでいる小さな水溜まりに、私の顔が映り込んでいた。
思いの外、疲労に滲んでいる自分の顔に、げんなりとしてしまう。
(服も靴も濡れたし、遅刻しちゃったし、生徒さんは今日は一人だけだったし、イケメンに思いっきりぶつかっちゃうし、サイアクの一日だったわ……)
大きくため息を吐き、私は重たい足取りで日野駅に向かった。
****
脚を引きずるように階段を上り、ホームで電車が来るのを待っていると、東の空に鮮やかな虹が二本掛かっているのが見える。
「うわぁ……虹だ。それも二本……」
周囲に聞こえないように、私はボソリと呟く。
スマホをバッグから取り出し、滅多にお目にかかれないだろう貴重な光景を画面におさめ、シャッターを切る。
虹を見ると、ワクワクするのはなぜだろう?
何か楽しそうな事が起こる予感がして、私は思わず顔が綻びそうになってしまう。
(確かに今日は散々だったけど、最後にイケメンを拝めたのはラッキーだったかな……)
ボーっとしながら考えていると、中央特快東京行きがホームに滑り込んできた。
電車に乗り、ドアのすぐ側に立っていると、多摩川を渡っている時にも虹は消えずに残っている。
さきほどホームで見た時よりも、鮮やかさが増しているようにも見えた。
(これから先、何かいい事がありますように……)
車窓に映る彩度を纏った虹を見やり、願掛けしながら『明日も頑張ろう』と、自分を励ました。
——La fine——
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