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連れていかれた白雪姫
しんしんと雪の降る夜、色白で黒目がちな天使が我が家に舞い降りた。
初めて産院で対面した時は温かな感動が全身を駆け巡り、俺はこのために今まで貯蓄してきたのだと分かった。
誕生から1週間、猿のようにくしゃっとしてた娘・雪乃の顔もつるっとして、ちゃんと人の子だ。
この子は誰似だろう? 今日、会社で自分似か奥さん似かと聞かれたから、顔をじぃっと見てみた。うーん…
「雪乃は桃花似かな?」
「そう? 爪は優君似だよ、ほら、丸っこいもん!」
「そ、そうか」
そう言われると嬉しいもんだな。慌ただしい毎日だけど育児頑張ろう。このためにホワイト企業に入ったんだ。最強のイクメンに俺はなる!
と意気込んだのに─…
帰宅すると今日も部屋は真っ暗。桃花が雪乃を連れて実家に帰ってから、もう何日だ?
まるで独身時代に戻ったかのようだ。自分だけの夕飯を用意して風呂掃除して、そして寝る。こんなに自由が許されるなんて拍子抜け…。
とはいえ、これではあまりに家族感がないし、雪乃が恋しくてたまらないので桃花の実家に迎えに行った。
義母も付いてきたが、娘と離れ離れよりはマシだ。
思えばいつもそう、「仕方ない」でごまかしてきた。
娘が二歳になっても桃花はしょっちゅう実家に帰り、自宅に戻る時は必ず義母が一緒。
「だって赤ちゃんの頃より今のが大変なんだよ!? イヤイヤ期でちっとも言うこと聞かないし!」
そう喚かれたら返す言葉もない。しかしこんな生活じゃ娘が俺にちっとも懐かない。
「俺はもっと君たちと一緒にいたいよ…」
「ん、何か言った?」
ろくに話し合いもできず時間だけ過ぎていく。俺ももう三十手前だ。家族とふれあい充足感を得たいのだが──
以後何が変わることもなく。
扉を開けても誰もいない、散らかったままの自宅に足が向かず、会社近くのバーに寄るようになった。
「お隣よろしいです?」
ほろ酔いの俺に、細面の女性が声を掛けてきた。ハスキーな声でカシスソーダをオーダーする。桃花と違って自立していそうな人だな。
暗い照明の下で互いの顔がはっきり見えないのもいい。彼女はイイ感じに話題を振ってくれて、会話が途切れることはなかった。
「あら、もうこんな時間ね…」
久しぶりにいい酒が飲めた。気分よく彼女と連れ立って店を出た。
そして朝目覚めたら、なぜか俺はホテルの部屋の壁に沿い、寝転がっていたのだった─…。
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