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暗黒の時代に
気付いたら俺は大自然に覆われたサバンナの一区域で暮らしていた。一周目、二周目の生々しい記憶を抱え転生した俺は今…細マッチョな黒人だ。
なんでアフリカ? と最初は戸惑ったが。前回酒に塗れて朦朧とした時、こう心が叫んでいた。
もはや現代日本で生きたくない。
日本社会は闇だ!
強欲な人間が甘い汁を吸い、真面目な人間が泥沼に沈められる。闇に飲まれた社会なんだよ。
俺自身に生まれ変わるのもこりごりだ。
たぶん何度生まれ変わっても俺は、良く言えば根が素直、悪く言えばチョロいカモ。そんな男が生きていくには、現代日本は厳しすぎる。全く別の、生き抜く力の逞しい男に生まれ変わりたい!
その願いが聞き入れられたようだ。神はいるんだな。
この村での日々はなんていうか…温かい。もちろん厳しい暮らしさ。毎日せっせと働いて食料を確保しなければ…。
でもみんな一緒だ。みなで働きみなで分け合う。電気がないから日が昇ったら起き、沈んだら寝る。以前の俺には想像もつかない、原始的な在りように心が満たされる…。
「あなた、帰りましょ」
「コニー。大事ないか?」
川で洗濯を終えた妻が畑まで迎えに来てくれた。彼女のお腹には、俺たちの初めての子がいる。
「大丈夫よ」
ああ。にっこり笑うコニー、最高に綺麗だな。俺はこの人生で知ることができた。愛情を湛えた女性の瞳はこんなにも、キラキラ輝くものなのだって。
ずっと彼女と寄り添い暮らしていく。万一の時には妻と我が子を守って死ねたら本望だ。
そうしたらもう二度と転生することなく、今度こそ成仏できるだろうな。
しかしそんな幸せは、無残に踏みにじられるのだった。
悪漢が集団で村を襲撃してきた。どこかの国の有力者に雇われ恐ろしい兵器を携えた、人種の違わぬ男たちが…
「コニー、逃げろ!」
「でもあなたがっ」
村の男全員で盾になる。
女性と子どもを逃がすべく戦っている。敵は銃器、俺たちは槍に弓矢。敵うわけが…いや決して諦めない。だが、
大きなお腹を抱えた彼女が逃げられる…? これは残酷な選択か? しかしここで捕まるより、たとえ僅かな可能性でも!
「分かったわ。必ずこの子を無事に」
「任せた」
愛の言葉を交わす時間もなかった。彼女に捧げる涙が流れたのは、別れよりだいぶ遅れて、俺に手枷と首輪がはめられた瞬間だった。
俺たちは奴隷市場へ向かい歩かされている。
かつて世界史の授業で習ったことを、この道中で思い出していた。転生先がいつの時代かなんて今まで考えていなかったが…
“奴隷貿易”、十六世紀から十九世紀に行われていたという。
連行される俺たち黒人同士は縄で括られ、体力を失っても引きずられたまま、この道のりで死に絶えていく。
「これは現実なのか…?」
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