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石と珊瑚で造られた、独特な景観の街に辿り着くと、その一角で奴隷はステージに乗せられ次々と鞭で打たれていった。痛々しい悲鳴が観衆の合い間を縫って響く。
「なぜこんな…」
この惨状から目を背けずに、じっと見つめていた。
そうか。これは“奴隷商人のプレゼン”。鞭で打たれても泣くことのない奴隷には高値が付く。
それだけのためにこんな拷問を…。
「人をなんだと思ってるんだっ…」
ああ、取引に熱心な奴らの目を見れば明らかだ。人だなんて端から思っていない。
俺はどれほど強く打ちつけられても泣かなかった。本当に今世の俺は心身共に屈強だ。しかしその報酬は奴隷商人の懐に入るだけ…。
この朝、俺たちは早くから奴隷船の狭い貨物室に詰め込まれた。劣悪な環境で首輪をはめられたまま、幾日とも知れぬ渡航に耐えるしかない。
「村の子らは無事かな…」
隣でそう零したのは同じ村で育った仲間、イディ。
彼もあの日、俺たちの弟妹を逃がし最後まで屈せず戦った。
「もちろんだ。俺のコニーも。赤ん坊だって無事に生まれてる」
言葉が言霊になって現実となるよう、俺は語気を強め言い放った。
「うん。みんな絶対に無事だ」
「イディ? 顔色が…」
彼は感染症に冒されていた。
「…お前も情に厚く働き者で、生まれた時代が時代なら社会で活躍できただろうな」
イディを海に還した。
彼は最期に力を振り絞り、俺に言葉をかけて逝った。
──君は生きて、村に帰って…
「無理だよ…。知ってるだろ。永遠に、無理だ」
時代には逆らえない。人ひとりの力なんかちっぽけで、生まれ持った運命を受け入れるしかない…。
どの大陸に到着したのだか分からない。売られた先で朝から晩まで労働を強いられ、農作業しながら意識を失った。
──その奴隷ももう死ぬな。新しいのを調達せねばな。
農場主らの高笑いが、遠くに響いていた。
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