希望は何色?

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希望は何色?

 澄み渡る青空の下。俺はビルの屋上の手すりを掴んでいた。  下を覗けば路地裏。この景色は見覚えがある。  あの日の、まさにここから飛び降りんとする俺だ。 「なんだよ、これ…」  なんで死ぬ間際に転生してんだよ。結局また俺じゃないか。 「もう“この俺”に生きる希望なんか…」  そうなのか?  本当に、俺には何もないのか? 俺はただ無力なだけの人間か…  それでは救いがない。なのにわざわざこの世に生み出される意味って──  でも。  初めて雪乃を抱いた時、生命(いのち)が愛しくて胸が震えたんだ。  あんな暗黒の時代でも、家族や仲間といた俺は心の底から笑ってたんだ!  その瞬間の幸せのために抗う術もなく生きたいと願う…そう生命(いのち)に刻まれている。  だから…  あるんじゃないか。きっとまだそこら中に埋まってる、希望が。 「赤井!?」  扉口から投げかけられた呼び声に、びくっとして振り向いた。 「黄田…」 「お前、何を…。まさか」 「……」 「早まるなよ! お前はこんな処で終わる奴じゃない!」  悪い。心配かけて。  俺は黄田の手に支えられ柵の内側に戻った。 「そうだよなぁ…」  現代日本に生まれたんだ。  選択肢がある。自由がある。  この恵まれた時代に俺は養われた、考える力を。  未来(さき)を切り拓く力を。 「俺、旅に出たい。ちょっとアフリカ行ってくる」 「アフリカ?」  俺は今日も明日も飽食だ。  でも現代(いま)ですらたまたま恵まれない土地に生まれ、俺ら日本人が享受する当たり前の日常を手に入れられない人たちがいるんだろう。 「俺にできることがあるか探してくる。といっても行き当たりばったりじゃな。まずはNPOに問い合わせて…」  二週目の大学時代、サークルイベントで支援団体代表の講演を聞いた。同窓生に伝手があるかな。 「ずいぶん突拍子もないこと言うんだな。いいと思う。ボランティアの世界ではよく言うだろ、“微力であっても、無力じゃない”。なんでもまずはやってみる、だよな」  俺は決して無力じゃない。   「ああ。早速、辞表投げつけてくるわ!」  この限られた人生(とき)を遠慮なく、いけるところまでいこう──
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