第13章 再会 その①

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第13章 再会 その①

 1年が過ぎ、私はそれなりに穏やかな生活を送っていた。池袋のアパレルショップで週4日働きながら、将来のためにファッション色彩能力検定の資格をとるために勉強をしている。  台所の掃除をしていたある夕方、家の電話がなる。 「もしもし?」 「……!」 「どなたですか?」 「心愛ね? 心愛なのね? 私はあなたの……お母さんよ」  ほとんど記憶に残らないほど昔に私たちのもとから去っていったのに、なぜ、急に連絡してきたのだろう。私は言葉をうまく返せない。 「今までなんの連絡もできなくてごめんね」  まだ現実感がない私に、母と名乗るその人は続ける。 「今夜会えるかしら? 日本に戻ってきたばかりで時差ボケしてるけど」 「海外にいたんですか?」 「ええ、オランダよ。その話はじっくりするから、ホテルのロビーで話しましょう」  あれほど気になっていた母だが、いざ連絡がくると、なんかそわそわした気分になる。  父に確認のメッセージを送る。 〈もう戻ったのか。2週間くらいかかるという話だったから、まだ心愛には話してなかったのに〉  母はどんな人なのか。なぜ今まで手紙のひとつも送ってくれなかったのか。  電車を乗り継ぎ、指定されたシティホテルに行く。広いロビーの中に、ブランドものに身を包んだひときわ輝く女性を見つける。 「心愛!」  女性が声をかけてくる。 「毎年写真を送ってもらってたから、一目でわかったわ」  父は母と連絡をとっていたのか。それならなぜ黙っていたのだろう。  私は単刀直入に聞く。 「何で会いに来たんですか?」 「あなたの様子がおかしいって、前々から聞いてたの」  私は納得が行かなかった。何か他人事のようだ。 「今さらですか?」 「そんな言い方しないでよ。せっかく日本に戻ったんだから」 「日本には仕事で?」 「ええそう。予定が早まっちゃって、バタバタしてごめんね」  そうか、私は「ついで」なんだ。仕事のついでに会うんだ。 「まあまあ、順を追って話すから」  母という人に促されて私はロビーのソファに座る。 「まず、離婚の話をするね」  気になっていた話がようやく聞ける。 「あなたが2歳の時、妹が自死したの」  あの話か……。 「あの子は元々情緒不安定だったけど、まさかそうなるとは……。それからお父さんとはすれ違っちゃって」  私は頷く。 「そう、もう聞いていたのね。私たち、あの子は口だけだと思ってたのよ。でも本当に……」  女性はクラッチバッグからハンカチを取り出し、目を拭う。 「お父さんは自分を責め、お酒に溺れるようになって……」  私はまた混乱する。この人は自分の妹の死をどう思っているのだろう。まるで「私ってかわいそう」という感じだ。 「結局、私は逃げるように家を出たの」  私は絶句する。逃げたって? 「つまり私を捨てたんですよね?」 「仕方なかったのよ。お父さん、大変だったんだから」 「へえ? そんな大変な人に私を押しつけたんですか?」 「ねえ、怒らないでよ。あの時は他に思いつかなかったの。仕方なかったのよ」  劇的でもなくぎこちないわけでもなく、ただの喧嘩になってしまった母との再会に私は失望した。  抱きしめて欲しかったのに何もない  Bonnie Tylerの Total Eclipse of the Heartを思い出し、私は深くため息をついた。
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