第4章 消したい記憶 その②

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第4章 消したい記憶 その②

 私はこの話がきっかけで松中先生との関係が悪化するのではないかと心配したが、そうはならなかった。 「こないだは言いすぎたね。橘はずっと真面目だったから驚いたんだよ。ほら……あの、林原が編入してきてから変わっただろう?」  それはそれで確かだが、先生がそう指摘するほど私のことを見ていたとも思えない。 「あまり人の話に惑わされず、自分らしく生きなさいね?」  自分らしくか……。もし香乃と出会わなければ今の自分はいない。自分らしさがかつてのような孤独を意味するなら、私にはもう必要ない。 「松中うざーい!」  屋上で香乃が突然大声を出す。 「なんか言われたの?」  驚いて聞く私に香乃はうなだれる。 「うーん……前々から目をつけられた気がするなあ。編入したときから」  そういえば私は香乃の過去を知らない。編入してきたときからクラスの人気者だった。 「昔は結構暗い子だったんだよね。でも変わりたいと思った。ここには昔の私を知る人はいない。だから心機一転頑張ろうって!」 「私は今の香乃を好きだよ。もし過去に出会っていたとしても、好きになっていたと思う」  これは嘘偽りのない私の気持ちだ。  高校を卒業しても、私と香乃はこのまま一緒にいるんだ。 **  楽しい日々があっという間に過ぎていく中で、私たちは世界一周旅行の話をより具体的にするようになった。  アメリカの映画やドラマが好きな香乃だが、行きたいのはヨーロッパ方面だという。 「中世の貴族が好き。イメージしか知らないけど」 「貴族の女性は、コルセットで無理やり腰を締めるんだよ?」  私が心配そうに言うと香乃が待ってましたとばかりに答える。 「私は騎士になるの。心愛に何かあったらいつでも助けに行く白馬の王子様だよ!」  さすが香乃だ、発想が違う。  ん? 「待って。私がお姫様なら、私はコルセット巻き巻きだよ?」 「大丈夫、私がすぐ脱がす!」 「香乃だったらいいよ」  思わず大胆なことを言ってしまったが、気持ちは本当だ。ふざけて言ったわけではない。 「早く卒業したーい!」  この言葉にはもうひとつの意味がある。私たちは唇を重ねる仲にはなっていたけれど、それより先は高校を卒業してからと決めていたのだ。  香乃の好きなKaty PerryのWhat Makes a Womanを二人で歌う。
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