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第6章 最悪な誕生日 その①
私とルカさんは毎週水曜日の午後に会い、食事をするようになる。彼が週末は忙しいというからだ。
ルカさんが今まで行ったことのない場所に連れていってくれるので、自分が成長していく気がした。
私は地味な服を変え、ゴス系の服を着るようになる。チェーンがついているタイプが特に似合うと感じた。メイクも少しずつ覚えていく。
ルカさんは会うたびに中野駅まで送ってくれ、そこから家まで私たちは通話する。本当はもっと、毎日でも、朝まででも会っていたい。でも彼は私の父を心配させるわけにはいかないと言って私を家に返してしまう。
私はそんなルカさんの誠実さに魅かれていった。
やがて私の誕生日、7月31日が来る。去年も一昨年もその前も香乃と過ごしたけど、それはもう過去の話だ。
「今年の誕生日はどこで夕食食べる?」
父に聞かれて私はハッとする。すっかり忘れていたが、子どもの頃は、誕生日に父と外食するのが習慣だった。
ここ3年は香乃と過ごしていたから、今年は自分と……父はそう考えたのだろう。
「お寿司がいいかな」
私は適当に返事をする。父と過ごすより、ルカさんのほうがいい。そこでチャットルームに書く。
〈もうすぐ誕生日なんだけど、みんなは誕生日どう過ごす?〉
〈誕生日大嫌いだから一人で過ごす〉
〈私も。朝まで部屋で飲んでる〉
私にはそんな答えより、この書き込みをルカさんが見ているかのほうが大事だった。メッセージアプリの通知音がなる。
〈心愛ー! 誕生日近いの? もちろん俺に祝わせてくれるよね?〉
やった! ルカさんから送られてきたメッセージに、私は心が満たされていくのを感じた。
〈祝ってくれるんですか? 嬉しいです〉
〈どこか行きたいところある? ネズミーランドかな?〉
私は吹き出す。
〈人混みは好きじゃないんです。あまり遠出もしたことないし、どこがいいかな〉
〈遠出? 遠いのは東京駅構内だけだね。東京駅だけでアトラクションだよね〉
私は爆笑する猫のスタンプを送る。
〈大正時代にでも行ってみる?〉
〈何の話ですか?〉
歴史は嫌いじゃないが、近現代史はよくわからない。歴史の授業でも駆け足だった気がする。
〈川越に小江戸って観光スポットがあるんだよ。大正時代の街並みが再現されていて、着物をレンタルして街を歩くこともできる〉
初めて聞く話に心が躍る。ルカさんと行けるならどこでもいいのだけど。
香乃とはデートらしきデートをしたことなかったかも……。
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