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第6章 最悪な誕生日 その②
ルカさんとは新宿駅で合流し、山手線で池袋へ。池袋から東武線で本川越に向かう。
暑い日だったけれど私は長袖を着ていた。私たちは着物をレンタルし、街中をブラつく。
平日だというのに意外と人が多い。
「暇人多いな」
ルカさんが笑うが私は少し罪悪感があった。高校を卒業後、結局何もしていない。世界一周旅行も語学留学も行けなかった。
父は「気が向いたら行けばいいよ」と言っている。
時の鐘近くのカフェで二人、フラッペを飲む。ふとスマホを見ると父からメッセージが届いていた。
〈林原さんからメッセージが来たよ。転送してくれって〉
父は香乃と連絡を取り合っていたのか。驚いた私は、慌ててスマホをバッグにしまう。香乃のことだからおそらく、律儀に誕生日祝いのメッセージを送ってきたのだろう。
風鈴のアーチをくぐって川越氷川神社に入る。ここは縁結びで有名な場所だ。
「心愛とのことを願うよ」
そういうルカさんに私は一抹の不安を覚える。ルカってネット用の名前だと言っていた。私はいまだにルカさんの本名を知らないのだ。
ゆっくり息を吐きながら、おみくじをひく。吉か。悪いわけではないが、「待ち人来ず」「病、長引く」という文言がなんとなく気になってしまう。
腕を切りたい気分になるが神社ではさすがにまずい。胸を締めつけられそうな気持ちを隠し、二人で笑いながら街を歩く。そして私は循環バスの中で、袖から見えないあたりを密かに切った。
包帯を持ち合わせていなかったため、左腕から血が涙のように滴る。だがルカさんは気づいていない。
泣きたい気分になった私は体調不良を装い、早めに帰宅することにした。
「誕生日おめでとう!」
駅のホームでルカさんが、ラッピングされた小さい長方形の箱を渡してくる。
「ほら、あけて」
促されてゴールドのリボンをほどき、白のラッピング紙をめくると、中から紺色のベロア地の箱がでてきた。開くと、中にはキラキラしたネックレスが入っている。
アクセサリーに鈍い私は、どれだけの価値があるのかわからない。ペンダントトップは薄いピンクの蝶のような形をしている。
「あまり好きじゃなかった?」
「いえ嬉しいです! 少し驚いちゃって」
ルカさんはネックレスをとって私の後ろに回る。
「髪あげて?」
言われるままに髪をまとめてあげると、ルカさんは私の首にネックレスをつけてくれた。髪をまとめている間も、彼は私の腕の傷のことを何にも言わない。
駅から家まで歩きながら香乃からメッセージが来ていたことを思い出す。ブロードウェイから一本入った細い道に入り、確認する。HeartのSecret。動画へのリンクが貼られている。
……確かにそうだね、私たちは別々の道に進んだ。でもそれは私が望んだわけじゃないんだよ。
私は動画を閉じる。誕生日にこんな曲を送ってくるなんて。
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