第13章 再会 その②

1/1
前へ
/42ページ
次へ

第13章 再会 その②

「まだ話はあるの」  立ち上がる私の腕を女性が掴む。 「この写真を見て」  私はしぶしぶ手渡された写真を見る。まさか……! 「この人が私の今の夫。こちらは娘さん。そして娘さんのパートナー。あなたのお友達なんですって?」  そこには笑顔で女性と腕を組む香乃の姿があった。 「驚いたわ。まさか娘の友達と海外で会うなんて。二人は結婚するんですって」  私はおそるおそる尋ねる。 「香乃は私のこと、なにか言ってましたか?」 「あなたは特別な人だと」  急に涙が出てくる。香乃も運命の人と出会ったんだ。よかった。 「心愛……?」 「香乃は、私にとっても特別な人ですよ」  女性はソファに座り直す。 「皮肉なことだけど……今の夫もアルコール依存症なの」  私が女性の斜め前に座ると、彼女は軽くため息をつく。 「でももう、私は逃げないわよ。夫はAAという自助グループに通って、今はお酒を絶っているわ」  AAとはAlcoholics Anonymousの略であり、ミーティングでは各自、言いっぱなし、聞きっぱなし。話す力と聞く力を養い、お互いに励まし合って困難を乗り越える。AAは自助グループの先駆者と言える存在だ。   「それで? トラブルがあったんですって? 焦っちゃだめよ」  そのトラブルが何かも聞かずにアドバイス?  悪気はないのだろう。ただ私が求めている距離感とは違った。だからそっと拒絶する。 「私はもう大丈夫ですから」 「あらそう。じゃあ私は今から会食だからまたね。人生はいつからでもやり直しが効くから、お互い頑張ろ」  母はあくまでも私を産んだ人に過ぎない。私は何を期待していたのだろう。母の家族、香乃の家族、私の家族。どれが正しいわけでもなく、比べたところで意味がないのだ。  そして私は父に感謝する。つらいことがあって、お酒に溺れ、妻に逃げられながらも、私を大事に育ててくれた。 〈積もる話はできたかい?〉 〈あまり……。でも私にはお父さんがいるからいいや〉  父は照れるうさぎのスタンプを送ってくる。  私は香乃に「幸せになれてよかった」とメッセージを送った。Taylor SwiftのMineも忘れずに添える、もう一人じゃないって。 **  私はお風呂場の鏡を見る。  左手首には横に何度も切った白い傷跡。両腕と両足には、深く切りすぎたためにできた無数のケロイド。  切った過去を変えることはできない。だから私は私の人生を引き受ける。  その日は普段より早めにベッドに入り、ゆっくりと寝た。翌朝起きたときに、りくさんからのメッセージに気づく。 〈心愛、りくです。あの時は本当にごめんなさい。自分のことでいっぱいいっぱいになってしまった。もう一度会ってほしい。ちゃんと謝罪したい〉    気がつけば別れてから2年がたち、コロナは5類に引き下げられていた。  私たちは初めて会った渋谷ヒカリエのカフェに行く。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加