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 大好きな人にプロポーズされて、その日はなかなか寝付けなかった。だから夜風に当たろうと思って、部屋を抜け出したのだけれど、幸福の後に待っているのは、全てを壊す絶望だった──。 「それで首尾は?」 「そうだな、問題ない」 「口調がリクハルドのままだぞ」 「おっと……そうだね。()()()()()殿()()()()()()。全部、当初の計画通りだよ」 「──っ」  そこには、私にプロポーズをしたリクハルド様が佇んでいた。  彼が忌み嫌っていた黒髪が金髪に、赤銅色の瞳は空色へ。屈強な体から優男になり雰囲気も粗野で乱暴かつ色っぽさが消えて、絵本に出てくる王子になった。あの方は王弟殿下!?  もう一人は漆黒の外套を羽織っているので、よく見えないが何処かで聞いたことのある声だ。  この段階で情報量が多すぎて、その場を去ることも、彼らの前に出ることもできず立ち尽くしてしまう。  リクハルド様の姿は──全部偽物だったの?  聖女()への告白も、全部──?  疑問が溢れかえる。そんな私を置いて、彼らは話を続けた。 「ではこれで女神様との賭は──」 「ああ、ボクたちの勝ちだ。この世界に聖女は不要。悪しき風習をボクたちの代で断ち切ることができる」 「最後まで教会には気取られないようにするのだぞ。キャロライン(聖女)の純潔を奪うまでは気を抜くな」 「もちろんですよ、国王、いえ──兄上」 「──っ」  どうしてあの日、夜の裏庭に向かってしまったのだろう。  どうして国王と彼が密談していたのか。  いっそ聞かなければよかった。そうすれば夢を見ていられたのに──。  ここでも利用されて、面倒事を押し付けられて、その責任を押し付けられるだけなのだわ。この国も聖法国と変わらないのね。今まではその事実をすんなり受け入れて、よくあることで流せていた。  でも、今回は──。 「──っ」  ぽろぽろと零れ落ちる涙は雪を少しだけ溶かすだけで、私の心はカチカチに凍っていく。嗚咽を漏らしそうになって、久し振りに声を押し殺して泣いた。 
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