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ユミは結婚して1年の新婚だ。
最近は夫のタカの態度が気になって仕方ない。
付き合っていた頃は優しかったはずなのに、タカは、ユミの行動一つ一つに点数をつけるようになっていた。
料理の味、掃除、果てはユミの服装や態度までもが採点の対象だった。
「今日の晩御飯、80点だな。もう少し塩加減を考えた方がいいぞ。それに窓の掃除、まだほこりが残っている。60点だ」
次第にその点数付けが日常的なものとなり、ストレスを感じるようになった。
タカはある日、深刻な顔でユミに言った。
「ユミ、君の点数が0点になったら離婚だ。これは君への警告だ。僕は君がいい妻になれるように注意してやっているんだ」
0点になったら捨てられる。
ユミは何度も努力を重ねた。
完璧な妻であろうと頑張ったが、タカの要求はどんどんエスカレートしていった。
シャツのアイロン掛けは少しでもシワが残ると50点にされる。
ゴミ箱に投げ込まれたハンバーグ。きのこが入っているから30点と言われたものだ。
ハンバーグを見下ろして思った。
「これ以上、タカの点数を気にして生活を続ける意味はあるの?」
愛にも点数があるなら、ユミの中でタカへの愛情は-500点。
ユミは離婚を決意した。
わざと手抜きをすることに決めたのだ。
掃除と洗濯物は自分のぶんだけ。
食卓の、タカの席には冷凍食品のパックだけ置いておく。
てめえで温めて食えと言うことだ。
「妻のくせに料理をしないなんて! 20点だ!!」
(なんだ、まだ0点にならないのね)
ユミはがっかりした。
「ユミ、どうしたんだ? 点数がどんどん下がっているぞ。離婚になってもいいのか? パートのお前じゃ一人では生きていけないだろ。僕に頭を下げて謝れば点数を修正してやってもいいぞ」
譲歩してやるというタカに、ユミは冷静に答えた。
「タカ、私はあなたの点数表に縛られたくない。私の人生は私のもの。0点にしてくれてけっこうよ」
ユミは掃除も洗濯もせずパートに向かった。
「そうかいそうかい。なら一人でやってみろよ」
タカはムキになって離婚を宣言した。
ユミは笑顔で離婚届にサインをして、2週間前にまとめておいた荷物を持って家を出た。
タカは、結婚するまでは実家暮らしだったので、料理も掃除も洗濯もできない。
スーパーの半額惣菜を買って帰る生活が続き、家はあっという間にゴミ屋敷になった。
戻ってきてくれとユミに電話をしたらブロックされ、メールも届かない。
プライドをかなぐり捨てて親に泣きついて、母親が家事を教えに来てくれているそうだ。
一方ユミは離婚後、自由を手に入れた。
パートはフルタイム。
ためておいた賃金で賃貸アパートに入った。
点数の束縛から解放されたユミは自由気ままにおひとりさまを満喫する。
点数のない生活は天国。
再婚は当分しなくていいなと考えるユミだった。
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