1.人売りジール

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 ジールは、頭を抱える。  ジールが考えている間に、女の子は、きょろきょろと周りを見回した。袋から抜け出し、作業台からずるりと滑り降りた。  ジールは思考を中断する。 「おい、勝手に動くな。帰ったってろくなことにならないって」 「ここおじさんのいえ?」 「そうだよ、悪いかよ」 「せまい」  女の子は、作業部屋の、この一部屋すべてが家だと思った。 「んだと?! 他にいくつも部屋があるんだよ!」 「へやどこ?」  女の子は、自分が置かれた状況をいまいち分かってないのか、面白がってジールの横をすり抜ける。 「おい!」  女の子は、隣の部屋に続くドアのノブを背伸びして掴む。 「こら!」  制止を聞かず、女の子はドアを開けて部屋に駆け込む。と、女の子は動きを止め、きょとんとなった。  その部屋には、コの字型に大きな木製の棚が置いてあり、下の段には大きな樽、真ん中には壷、上の方には小瓶が置いてあった。小瓶には栓の近くまで透明な液体が入っている。その中に、直径が銀貨くらいの大きさの球体がふたつ浮いていた。球体の半分以上は白色で、一部は皿状に色があった。この色は瓶ごとに違い、黒っぽいものや、青かったり、赤かったりした。 「あれは?」 「商品だよ」  女の子は、目を凝らす。 「目玉だよ?」  女の子が、ジールを振り返った。ジールは、だから何? という顔をする。 「目玉を欲しがる奴もいるんだよ。目玉だけを集める趣味の奴とか、薬にして飲んだり売ったりする奴とか」 「ふーん?」  女の子は首を傾げた。 「興味ないだろ。ほら、出た出た」  ジールは商品保管部屋から女の子を押し出そうとする。女の子は、なおもジールを見上げた。 「ねえ、あれさあ」 「なに?」  女の子は、棚の瓶のひとつを指さす。その瓶に入っている目玉だけ、球全体が黒かった。 「ありゃあ、希少品だ。収集家の貴族に売るんだ」  女の子は、ジールの顔を見る。 「あれさあ、目玉じゃないよ」 「は?」
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