1.人売りジール

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 ボコンっ!  不気味な音が保管棚の方から聞こえて、ジールは、一瞬固まる。  だが無視した。 「ほら~、出た出たぁ」  何も無かった様に棚に背を向け、不自然な愛想笑いを浮かべて女の子を追い出そうとする。  ボコボコンッ!  無視できないくらい連続して音が聞こえて、足が止まる。  ジールは愛想笑いを引き攣らせて、女の子の言っていた瓶の方を振り向いた。  保存液の中の黒い目玉だった筈のふたつの球体が、ぼこんっぼこんっと、あぶくを立てるように(いびつ)に膨れていく。  ボコぼこん。  ぼこん!  やがて、瓶一杯に黒いものが広がり、圧力によって瓶を割った。  ガシャン!  瓶を飛び出した黒いものは、液と破片の中でぼこぼこと急速に膨れ上がる。一部がだらりと垂れ、床へと落ちて行った。  それはやがて、上と下とが太く大きく繋がりひとつの形あるものへと変化していく。  ジールは、青ざめた。  黒いものの重さによって棚が崩壊した。  ジールと女の子は、呆然とそれを見つめる。  黒いものは、瓦礫の中で次第にはっきりとした形がつくられていく。 「さっさと出るんだよ!」  ジールは女の子の両脇を抱えて部屋から出た。作業部屋に女の子を立たせて、慌ててドアを閉める。 「椅子!」 「へ?」 「椅子だよ椅子!」  ジールは、そう叫んで自分で作業用の椅子を取った。ドアが開かない様にノブを固定させるつもりでいた。  ドゴオ!  その前にドアが半分吹き飛んだ。 「ぎえええ!」  ジールは、叫びながらドアを破って来る黒いものに椅子を叩きつけた。  ドアが完全に破られる瞬間、椅子も破片となって吹き飛んだ。 「逃げろおおお!」  ジールはどさくさに紛れて女の子を抱えると、玄関のドアを蹴破って家を飛び出した。  
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