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1.人売りジール
自治地域エンドルの中心地。
そこは、商人の町だ。生業も、服装も、身分も、国も、民族も関係なく、様々な人々が行き来する。
元は、単なる緩衝地帯だった。
かつて、二つの王国が長きに渡る戦争を終らせる為、不干渉の場所を両国の間に作った。それがエンドルの始まりだ。
各国を結ぶ中継地点にある為、今や経済の中心地のひとつとなっている。
商人が商売をする為の決まり以外は、特別な法も秩序も政府もないこの町には、様々な商人、商品が集まる。
そこで商人として拠点を構えるジールの取り扱う商品は人間だ。
生きている人間も、死んでいる人間も扱う。
町外れの一軒家にジールは住んでいる。
ジールの家には人体を解体する為の部屋がある。だがジール自身は血を見るのが駄目な為、解体は専門業者に任せている。
以前、自分の右手首をばっさりと切られた事があった。それ故に彼の右手は舶来品の義手になっている。ジールは、自分の右手が切り落とされた時、噴き出る自分の血を見て卒倒してしまった。従って人体の解体など以ての外なのだ。
業者が来るまでの間、解体の準備をしていたジールの耳に、がさごそと衣擦れの音が聞こえて来た。
ごそ。ごそごそ。
ジールは、音の方をゆっくりと振り返る。見ると作業台の上に置いていた麻布の死体袋が動いている。中は幼女の死体が入っている筈だった。
「おいおい」
動いている時点で死体ではない事が確定である。こういう事は、稀だが無くはない。
死んだと思っていたら単に気を失っていただけだったとか。死んだあと息を吹き返したとか。
死んだ奴がどうやって息を吹き返すかって? それが人間なら、やはり完全に死んでなかっただけの話だ。
ばふっ! と袋の口を開いて、髪に寝癖のついた女の子が勢いよく顔を出した。その、くりっとした黒い瞳がジールを見つけた。
「おじさん、おはよう!」
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