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「絵が上手だね」
彼女が絵を描き始めたのは、そのひと言がきっかけだった。
幼児の頃、画用紙にクレヨンで描いた絵。それを父母が褒めてくれた言葉だった。
子どもの描く絵なのだから、技巧もデッサンもあったものではない。ぐちゃぐちゃに描いた何とも分からない、上手とは言えない絵だ。
それでも頭を撫でられて、優しく告げられたのが本当に嬉しくて。
その時から、彼女は絵を描くのが大好きになった。
彼女は器用な人間ではなかったが、その分ひたむきに物事に取り組む才能はあった。
何より、絵を描くのは楽しかった。
線を引くことが、色を選んで塗ることが、絵に描く対象を観察することが。
何もかもが楽しくて、彼女は夢中になって絵を描き続けた。
「君の絵を、コンクールに出してみないか?」
ある日、恩師に思いがけない言葉をかけられた時、彼女は迷った。
賞のことなど考えたことがなかったのだ。
楽しくて、嬉しくて。その気持ちだけで描き続けてきたから。
でもせっかくだからと周りに強く勧められて、彼女はコンクールに挑むことにした。
そして、彼女は快挙を成し遂げた。
結果は最年少で入賞するという輝かしい成績。
周囲は沸き立ち、取材は殺到し、彼女の周りは変わっていった。
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