漆黒に塗る

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   彼女の絵は大勢の人の目にとまるようになった。 「ああ、本当に素晴らしい絵だ。温かみがあって、色鮮やかで、生命力がほとばしるような」  絵を見た人たちは、そう言ってしきりに感心した。  彼女が描くのは、『幸せ』だ。  あの時褒められて嬉しかった気持ち。  自分に向けられた家族の笑顔。  温かで優しい人との関わり。  彼女の大好きなそれらを、思いきりたくさんの色を使って明るく鮮やかに大胆に、それでいて緻密に描くのである。  華やかで明るい彼女の絵は誰にとっても親しみやすく、新聞・雑誌・インターネットにテレビと様々な媒体で取り上げられた。  一躍、時代の寵児となったのだ。  いつしか彼女の絵は、巨万の富を生み出すようになっていた。  それでも彼女は変わらなかった。ひたすらに絵を描き続けていた。  彼女は変わらなかった。  しかし――。
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