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翌日、俺が出社すると、総務部で「街でチンピラに囲まれた話」が話題になっていた。なんでも、急に現れた男が助けたんだとか。
「本当?そんなヒーローみたいな人がいるなんて」
「そうなのよ。佐藤さんが直接体験したらしいわ」
総務部の女子たちが興奮気味に話しているのが聞こえてきた。俺はいつもの通り営業部の方へ向かいながらも、既視感がある話だなと思った。まさに昨夜の出来事そのものだ。
デスクに着くと、同僚の中田が話しかけてきた。
「聞いたか?佐藤さんが街でチンピラに襲われたけど、正体不明の男に助けられたらしいぞ」
「そうなのか。大変だったんだな」と俺は無表情で返す。
「ああ、でもその男がすごいんだよ。まるで漫画のヒーローみたいだったって」
内心では笑みをこぼしそうになるが、表情には出さずに「そうか」とだけ答えておいた。
午前の業務を終えて昼休みに入ると、俺は食堂で佐藤さんを見かけた。彼女は友人たちに昨夜のことを話している最中だった。
「本当に怖かったけど、その男が現れて……すごい力でチンピラたちを倒してくれたの」
彼女の話に友人たちは驚きの声を上げていた。
俺は彼女と目が合った瞬間、彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んで頷いた。その表情には感謝と、俺の秘密を守るという約束の意志が込められているのがわかった。
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