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「いいか、よーく聞けよ円華
俺たちはもっと自分勝手に生きるべきだ。日本人は謙虚すぎる。お前は自分の意見を世界にもっと発信しろ。自分が主人公なんだ」
幼い円華に、タバコ臭い父がそう言った
「父さんが女に金を溶かしてるのも自分のためだよね」
「お前...言い方変えろよ
愛している女に使う金だぞ?」
「母さんじゃないのに」
「あの女は嫌いだ」
父は、家族を放って、愛人と遊んでばかりいた。
彼は酒に酔うと横暴になった
久しぶりに家に帰ってきた時は、大体酒に酔っていた。
母、千佳は父、正志の言いなりで、正志の顔色を伺ってばかりだった
「千佳、お前のせいだからな!
お前と結婚してこいつを産まなきゃ俺は...」
酒に酔って顔を真っ赤にした正志が、ビールの空き瓶を振り回しながら叫ぶ
「ごめんなさい、正志さん...」
千佳は謝ってばかりだった
あれ、どうしてこの2人は喧嘩しているんだろう。結婚は幸せなものじゃなかったの?
幼い円華はいつも疑問だった
しかし円華は、これが普通だと思っていた。どの家庭も、母が父に従って、父は家にいないものだと。
それが普通ではないと気づいたのは、父がついに例の愛人と共に消えた時だった
同じ小学校のクラスメイトは、父に愛人なんていないし、その人を連れていなくなったりしない。
そこでようやく、円華は自分が少し変わった環境で育ってきたことを知った
父は金を全て持ち去った。残された千佳と円華は、途端に生活が困窮した
「円華、あんたはどうして、そんな感じなの
お父さんがいなくなったのに、どうして平然としているの?
お金がないって言っても、悲しみも、驚きもしない。どうして?」
ある日、千佳は円華に泣きながらそう言った
「あの親父になんて興味はない
金は持っていかれたんだから、ないのは当たり前
お母さんこそ、どうして泣いてばっかりなの?」
円華は感覚が千佳とは少し違っていた。
千佳は円華をも恐れるようになった
やがて、千佳も円華の前から消えた。
円華は完全に独りになった
しかしそこへ、特殊清掃人の募集が舞い込んだ
名を名乗らない店長が、円華を拾った。
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