怖くなりました

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怖くなりました

 次の日から私の地獄は始まった。  この世界では男性が女性の家に通っては交際を申し込むのが恋愛の常だった。  それは別にいい。  何が怖いって、朝から晩まで家の周りにはたくさんの男性が訪れてくるようになったのだ。  おかげで成人して外出の許可をもらったのに、何をされるか分からない恐怖で一歩も出ることが出来なかった。  しかも。  男達は家の中を覗こうとしてくるのだ。塀から顔を出す者がいるかと思えば、生垣の隙間から顔を覗かせる男がいる。それも一日中、いつもだ。  色んな男が私を見ようとして、家の周りには常に男達の姿があった。そのせいでいつも男の視線を感じてしまって休まる時が全くなかった。  どうやら成人した時に開いたお披露目会が原因みたいだった。  曰く、   “讃岐の造の家には大層美しい女性がいるらしい”  あるいは、   “聡明かつ愛想のよい女性らしい”  他にも、   “誰にでも優しく、慈愛に満ちた女性らしい”  そんな噂が集落のみならず、都まで広がっているようだった。  大抵の男達は、しばらく覗いていてもその日の内に帰って、もうここには来なくなる。興味本位で来ているだけだから、見るのが難しいと感じたら帰っていくのだ。それでも毎日毎日違う男が家に来ては覗くのだから勘弁してほしい。  お披露目会で会った人間はもっと諦めが悪かった。どうにかして私に会おう、少しでも姿を見ようと家の周りをウロチョロしているのだ。  こんな毎日だったから、まるで動物園の檻に入れられた小動物の気分になった。  それに、今の所は敷地内に入ってくるような無作法者はいなかったが、いつ部屋に押し入られるか分からない恐怖があった。  だって前世のようなセキュリティは皆無なんだもの。  部屋は障子と襖で鍵なんてないし。  一応私室には御簾をかけてあるから全部を覗かれることはないけど、少しでも外に出れば視線を感じてしまうから、閉じこもっている方がまだマシだった。トイレやお風呂だって出来る事なら部屋から出ないで済ませたいぐらいだ。  そんな私の様子に、お婆さんは心配して毎日のように部屋に来て慰めてくれた。私は一度だけお婆さんに甘えて泣いてしまった。  それに比べてお爺さんは、私の婚姻を急かすような素振りを見せていた。お爺さんはすでに竹を切る仕事は辞めていて、今は村長に役人のお仕事を手伝わせてもらっている。どうやら本気で出世したいみたいだった。だからか、私にお見合いしろと言ってくるようになった。  老いても出世欲は増すばかり、ということらしい。  こうして成人した私は、前世の記憶から描いていたかぐや姫のイメージとはかけ離れた生活に、だいぶ精神的に参ってしまったのだった。
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