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お見合いすることになりました
ハーレムを作る、なんて息巻いていた頃が懐かしい。
私はすっかり対人恐怖に陥ってしまい、ずっと家に籠っての生活を続けていた。それでもお婆さんの献身的な愛情のおかげで絶望するには至らずに済んでいた。
そんな日々の中、ある時からパタリと家を覗いてくる者がいなくなった。どうやらお爺さんが村長に何とかしてほしいとお願いしてくれたようだった。
この頃の私は出世ばかり気にしているお爺さんに嫌悪感すら持つようになっていたけど、今回のことでちょっと見直した。
しかし、お爺さんはお爺さんだった。
男達が家を覗かなくする交換条件として、身分の高い人達とお見合いをすることを私に求めたのだ。
「おめさんが辛いんは儂らあも辛いでな。もう家を覗こうちゅうもんはおらんようにしたから安心してくれな。んでもよ、おめさんが大人んなったんは嬉しいけんど、儂らあもいつまで生きられるか分からんでな。良い縁談が決まりゃあ安心なんだあ。孝行やあ思うて見合いをしてくれんか?」
実のところ、家まで覗こうとする男達の数は減っていた。それはそうだ。会うことも出来ず、見ることも出来ないのではどうしようもない。
しかし家に籠る私にはそんなことは分からない。
それにお爺さんにもお婆さんにも育ててもらった感謝の念はもちろん、家族としての愛情も抱いていた。だから私はそのお爺さんの言葉も、建前だけではなく本当に私を想っているのだと信じることが出来たのだった。
それでも今の私は男性に恐怖を感じているのも事実で、そのことだけは伝えておかなければならなかった。
「私をここまで育てていただいたご恩は忘れていません。私のために色々とご苦労をおかけしていることも、たくさん可愛がっていただいたことも理解しています。しかし、今の私には結婚はもちろん、恋愛をしたいという気持ちの余裕がないのです。それは分かっていただけますか?」
お爺さんは少し困った顔をしたけど、すぐに私を案じてくれるような穏やかな表情で答えた。
「もちろんじゃ。おめさんの幸せ以上に儂らあの幸せもないでな。それでも何人かの御方とだけは会ってもらえんかの?かぐやの気持ちを思うからこそ、大切にしてくれる御方かどうかを儂らあも見たいでなあ」
そう言われてしまうと、これ以上は我儘になる。
そう思った私は覚悟を決めてお爺さんに伝えた。
「分かりました。ではその方々とはお会いします。ただし結婚をするかどうかは私の求める宝物を持ってきていただいたら、という条件です。それらの宝物は入手がとても難しいでしょう。だからこそ、その時の対応で私への愛が本気であるかを測ることが出来るでしょう。それでもいいですか、お爺さん?」
「おおよ。そういう風に伝えておくで、そん時は頼むでなあ」
喜ぶお爺さんを見ながら、私は自分の言葉に驚いていた。
なんで「宝物」という条件をつけたのかが自分でも分からなかったのだ。
前世の記憶に引っ張られた?
物語の流れに逆らえない”何らかの力”でも働いている?
自身の言葉に疑念を抱きながらも答えは出なかった。
兎にも角にも、こうして私は前世で知っている竹取物語のごとく条件を付けて、お見合いをすることになったのだった。
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