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産まれてみたら、竹の中でした
私が次に目を覚ましたのは、青臭い何かに囲まれた暗くて狭い場所の中だった。意識はあるのに体が縮こまって動けなかった私は、もしかしたら母親の胎内にいるのではないかと考えた。
「どうせなら、ちゃんと産まれた時に意識を戻してくれないかな。あの神様」
私はどうしようもないので、これからの人生や新しい世界がどんなものかをグルグルと考えていたが、結局疲れてまた眠りについたのだった。
そして、その時は突然やってきた。
カーーン
カーーン
頭の上の方で、甲高い音と振動が響いた。
私はびっくりと恐怖で目を覚ましたが、しばらくその音は続いた。
そして最後の音が鳴った後、光と風が私を包んだのだった。
「おぎゃー。おぎゃー」
私は自分でも驚くぐらいの声で泣いていた。
そして同時に、ああ、新しい人生が始まると思った。
泣きじゃくる私をそっと優しく抱き上げたのは、しわくちゃで硬いこぶだらけの手のひらだった。
「おお、よしよし。おみゃあさん、なして竹ん中さおったね」
きつい方言のような言葉で、私を抱いた男性が呟く。
ん? 竹の中?
私は、どこかで聞いたような産まれ方をしたらしい。
そういえばあの神様、「特別な存在」とか言ってなかったっけ?
私はもしかしたら、あの有名なお姫様として産まれたのかもしれない。
お爺さんが私を抱いたまま、慌てて山を下りていく。
「大変だあ!婆さんやあ!」
と叫びながら。
山を下りて、草木の生い茂る中の細い道を駆けて連れてこられたのは、いくつかの畑と家が点在している田舎の集落で、その中にある一軒家だった。この昔話に出てくるような茅葺き屋根の小さな家が、どうやらお爺さんの家らしい。
お爺さんは引き戸を思いっきり開けて、「婆さんやあ」と叫びながらドタドタと居間へと上がっていった。中ではお婆さんが正座をして、ほつれた上着の裾を縫っていた。
「あんれ爺様。そんな慌ててどうしたとね?」
おっとりとした顔のまま驚いたような表情を見せたお婆さんは、入ってきたお爺さんの顔を見上げた後、視線をゆっくりと下ろして胸に抱かれた赤子、つまり私を見た。
「おんやあ。誰ん子ね、爺様」
運ばれている間に泣きつかれた私は、親指を口に咥えながらお婆さんと見つめあった。
「めんこいねえ」
お婆さんはにこにことした笑顔でお爺さんから私を奪って自身の腕に抱き、ゆらゆらと体を揺すってあやしだした。
「婆さんや。こん子は竹ん中におってよ。不思議な子じゃけえ、儂らで育てられんかいのお」
お爺さんは上目遣いでお婆さんに問いかけた。するとお婆さんは、私を見つめてあやしながら、
「ええでないの。こん可愛い子は他におらんよ。うちらで大切に育てましょう」
こうして私は無事にこの世界における親の存在を得たのだった。
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