4人が本棚に入れています
本棚に追加
頑張ってみました
私が家に来てからというもの、お爺さんが竹を切りに行くと必ず黄金の粒を持ち帰ってきているようだった。どうやら私がいた竹林では節と節の間が光っていることがあって、そこを切ると黄金の粒がぎっしり入っているんだとか。
不思議なこともあるもんだね。
そのおかげで私が成人する前には大きな豪邸を建てて、どこぞの貴族か豪族かという生活を送れるようになっていた。
その家で私はお婆さんと一緒に家事をしたり、習字の練習をして過ごしていた。
家を建てる際にお爺さんが村長に挨拶をしたんだけど、その時に私が文字を読みたがっていると伝えたみたいで、不要になった書物を借りてきてくれたのだ。初めて見たこの世界の文字は予想した通りくずし字のようで、筆で流れるように書かれていた。ちょっと目を通した時には不安だったけど、嬉しい誤算でなんとなく読むことが出来たのだった。
私はこの書物を借りながら、硯と筆、紙をお爺さんに用意してもらって、毎日習字の練習をすることにした。これも勉強よね。
はじめの数日は書物の真似をして書いていたんだけど、あらかた文字を覚えたあと、今度は日記を書いてみることにした。まあ正確には日記というよりも、これからの目標やTO DOリストを書いてみたり、和歌を思いつくまま書いたりする感じ。
他人に見られたら恥ずかしいけど、幸いなことにこの家には私しか字が読める人間はいなかったし、相変わらず幽閉されたような生活だったため外に漏れる心配もなかった。
そんな訳で私は心の赴くままに和歌を作っていった。と言っても勉強した訳じゃないし、五七五七七になるように書いているだけ。季語も分からないしね。
そりゃあ私だって始めのうちは古語でちゃんとした和歌を作ってみようと思ってましたよ?でも無理でしょ?ここには古語辞典もないし。
というかさ、竹取物語の本が欲しいって。前世の文庫でいいから手元に置いておきたいよ。ある意味攻略本になると思うのよね。
でもまあ無いものは無いし、嘆いたところで変わらないってことで、とりあえず習字の練習って割り切って歌を書いてたんだけど、近頃はこれが楽しくなってきた。
例えば、こんな心情を歌ってみたり。
”神様よ 転生するなら 説明してよ 私は本当に かぐや姫なの?”
”この世界 分からないこと 多いけど 優しい家族が 安心くれる”
”未だ見ぬ 恋人候補は どんな人? 今は待つしか ないのだけれど”
他にも、この前聞いたお婆ちゃんの惚気を歌にしたのもあったりする。
”あの日より 共に暮らして 幾星霜 今も見守る 梅の花かな”
”照れている 育ての母が 可愛くて つられてこっちも 笑顔になるよ”
なんか格好つけたり素直になったり、時々愚痴ったり。誰にも読めないと分かっているから、何でも書くことが出来て色々と発散している私なのだった。
また、他にも私はお婆さんから花嫁修業として色んなことを教わった。といっても貴族のマナーみたいなものはお婆さんだって知らないし、教わったのは家事全般。これがまた前世とはやり方も道具も全然違うから最初はちょっと戸惑ってしまった。そんな訳で、前からお婆さんとやっていたおままごとやお手伝いの延長みたいな遊び感覚はやめることにして、ちょっと真面目に取り組んでいった。
それでもお婆さんの過保護っぷりは相変わらずで、包丁を握らせてもらったのもしばらく後になってからだったけど。
こうして私は自分なりに出来ることを頑張っていたけど、やっぱりというか身体は時間とともにどんどん成長していって、すでに中学生ぐらいの体つきになっていた。
そんな私を見て、お爺さんとお婆さんは慌ただしくある準備を始めた。
そう、私の成人の儀が行われる日が近づいていたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!