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お披露目されました
意識が戻ると、目の前にはさっきと同じようにお爺さんお婆さんが泣いて喜んでいる姿があった。どうやら時間は全然経ってないみたい。
それから二人が落ち着いたころ、私は今までの服とは全然違う、綺麗な着物に着替えさせられた。十二単のように、何枚も袖を通して着込んでいく。
全部着終わると凄く重い。動きづらい。
それから秋田さんの奥さんと思われる女性が、私の髪の毛を櫛で梳かしてくれた。彼女は私の髪をすきながら何度も何度も「おめでとう」「きれいね」と褒めてくれるので、むずがゆくなったけど凄く嬉しかった。
最後に髪を白い紐でまとめて、私のおめかしは終了。それからお婆さんに居間の方へと連れていかれると、そこでは宴会場のようにテーブルと座布団が綺麗に並べられていた。そのいつもと違う様子に、何が行われるのかをお婆さんに聞いてみた。
「今度は何をするの?」
「おめさんが大人んなったからの、皆に来てもろうて紹介するんよ」
規模の大きいお誕生日会ってことかな?
お手伝いさんに指示をしていたお爺さんが、私達の方に来て言った。
「たくさん来ちゅうよ。儂らん可愛い姫さんを皆に見せんと。今日は宴じゃ!」
準備はすぐに終わって、宴会が始まろうとしていた。
外が薄暗くなってきたころ、お客さんが次々と家にやってきた。十代の若者から結構な大人まで、数十人が居間へと入っていく。
・・・なんか男ばっかり?
成人したっていうお披露目だから、結婚の相手を探すってことかも。
今夜は疲れることを覚悟して、私はひな人形よろしく上座に座ってニコニコと見渡していた。
お客さん達が席に着くと、お爺さんの音頭で成人の儀という名のお披露目会が始まった。
「皆あ、よう来てくれた。儂らん自慢の娘が成人したあで、お祝いじゃあ。ようけ見てくんろお」
お爺さんの言葉にお客さん達は皆頷いた。
「こん子が“なよ竹のかぐや姫”じゃあ」
私の紹介がされると、お客さん、特に男性陣から「おお!!」という歓声が上がった。私は笑顔を崩さずにお辞儀をして、挨拶をしようと口を開いた。
「本日は私のためにお集まりいただきありがとうございます。先程、なよ竹のかぐや姫と名前をいただきました。今後ともよろしくお願いいたしますね」
子どもらしからぬ、お堅い挨拶になってしまった。
でもそんな私の言葉にお客さん達は無反応で、皆息を飲んでただじーっと見つめてきた。
あれ、何かおかしかったかな?
表情は変えずに内心ちょっと焦っていた私だったけど、お爺さんとお婆さんがお客さんの様子にうんうんと頷いて嬉しそうにしているばかりで何も言わないから、さらに混乱してしまった。
しかし一人の男性が発した言葉で理解した。
「おい讃岐いよ、おめえに娘えさいたことも知らんかったぞ。それもこないな別嬪さあで驚いちゅうに、ようけ知らん綺麗なしゃべり方までしようとに!どうなっちゅうによ」
その言葉の後、皆が一斉にしゃべりだしてガヤガヤと盛り上がった。そんな様子にお爺さんは宴会の開始を告げた。
「おうおう、皆の衆よ。今日はかぐや姫んお披露目じゃあ。可愛い娘ん為に来てもろうてありがとうなあ。大いに飲んで食うてくれやあ。乾杯!」
「「乾杯!!」」
そこから私は、個々に挨拶に来た男達と言葉を交わしてはニコニコとして座っていた。食べ物は目の前に置かれているのに手を付ける暇もないくらいに入れ代わり立ち代わり男が来るので疲れてしまった。いや本当に疲れた。
宴会は私がメインではあるものの、お爺さんの建てた豪邸の話も出ていた。
「どうやってこないな家え建てたよ?最近おめえさが竹を切ってないんは聞いてたけんどよ、羽振りが良すぎるんでねえかい?」
「だなあ。急におっきな家え建てちゅうんは見てたがよ。誰ん家か知らんかって今日は色々びっくりじゃあ」
お客さん達は時間を忘れて盛り上がっていった。主役の私はそっちのけで。
あー、でもチラチラとこっちを見ている視線はたくさんあったけど。
そして数時間後、皆がほろ酔いになって(中には泥酔して)ようやく宴会は終了を迎えた。
「さて皆の衆よ。今日は来てくれてありがとうよう。これからも家ん姫を頼むでなあ」
お爺さんの締めの言葉を受けて、お客さんは散り散りに帰っていった。
こうして私の長い一日は終わったのだった。
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