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転生しました
転生ものと言えば、「ブラック企業で働いて体調を崩したら、気が付かないうちに死んでいて異世界に生まれ変わる」っていうのがテンプレートの一つだと思う。
うん、確かに私も仕事に追われて体調は悪かった。
それと主人公はゲームやラノベが好きなオタクが多いけど、ブラック企業で働いていたら本を読んだりゲームで遊ぶ時間なんてある訳がないと思う。
私だって本を読みたかったけど、通勤電車は混み合っていて読めないし、帰りの電車は疲れていて寝ちゃうし、滅多にない休日だって最低限の家事をしたら泥のように寝るばかりだったもの。
そんなだったから、私もまた主人公よろしく現世ではおそらく死んだんだと思う。正直どこでどうやって死んだのか分からないけど、目の前にいる後光の差している人影が私を見つめて微笑んでいるのだから、きっと死んでいるんだろうな。
そしてこの人は、眩しくてよく見えないんだけど、たぶん神様だと思う。光っているし。
「奥村美樹さん。突然の事で驚かれるかもしれませんが、あなたはお亡くなりになりました」
ほらね。うんうん。
「お風呂で寝てしまって、溺れたのです」
えっ、嘘でしょ?! 私、裸で死んじゃったの?!
「ああ、自己紹介がまだでしたね」
スルーですか?! そうじゃないのよ!
「私はあなたの知識で言う神になります」
いや、それはそうでしょうけど。
「あなたには転生していただきます」
ああ、うん。そうね。やっぱりね。
「あなたのいた地球と似た場所です。ああ、一応ですが魔法は使えません」
ん? あれ??
「チートな能力もありません」
え? え??
「これも輪廻転生ですから当然です。それでは行ってらっしゃい」
いやいや!!
「ちょっと待って!私の知っている転生ものとは違うんだけど?!」
「あれはフィクションですよ。まあ違う世界の神が干渉してきたならあり得ますけど」
話を聞くと、どうやら世界はたくさん存在していて、この神様は私の属している世界を管理しているみたいだった。
「私の世界の中にもいくつかの星があります。あなたの知識で言うと宇宙の彼方にある星、もしくはパラレルワールドと言ってもいいかもしれません。ですがどの世界にも魔法はありませんよ」
つまり、時間軸の違う、神様の管理する別の地球に行けって事みたい。
「うんうん。美樹さんは賢いですね。魔法やチートは無理ですが、少しばかり希望に沿った所に送りましょう。どういった生き方がいいとかありますか?」
そうきますか。でも私もまたブラック企業で働くまでは漫画が大好物だったから知っていますよ。
「スローライフがしたいです。のんびりと暮らしたい。あとは恋愛もしたいかな」
のんびりは正義。それと不肖この私、初恋をこじらせていたので、お付き合いの経験がございません。
「なるほど。記憶に関してはどうですか?残すことも消すことも出来ますよ」
そりゃあ一択でしょうよ。
「残してください」
「ふふ、いいでしょう。ではある程度似た言語の場所にしますね。おまけでちょっと特別な存在として生まれ変わらせましょう」
含みのある笑顔がちょっと不安。
「ではでは、美樹さん。新しい世界に行ってらっしゃい」
そう言って神様が手を挙げたところで、ふと思い出したように私に言った。
「ちなみに、誰があなたのご遺体を見つけるか教えましょうか?」
「やめて!!」
からかっているのか天然なのか。
ホント勘弁して。
「そうですか、それでは良い人生を歩んでくださいね」
仕切り直して、今度こそ神様が手をかざすと、私の体が光に包まれて空へと昇っていった。
こうして私は、神様によって転生したのだった。
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