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黒い猫
Aさんが付き合っているカノジョと一緒に遊歩道を歩いていると、横の草むらから一匹の黒い猫が飛び出してきた。
その猫はそのまま車道に入ると、何故か道の真ん中で動きを止め、二人のことをじっと見つめ始めた。
すると、何を思ったのか、Aさんのカノジョさんが突然猫を追って走り始めた。
頭からバケツの水をぶっかけられたような身震いを感じたAさんは、大慌てでカノジョさんの腕を掴んだ。
「猫ちゃんが!」
カノジョさんは、Aさんを非難の眼差しで見た。
その瞬間である。
一台の大きなトラックが、轟音を上げて走り抜けて行った。
「ああ!」
カノジョさんは悲嘆の声を上げて、その場に崩れ落ちた。
しかし、トラックの土埃が晴れると、そこに猫の姿は無かった。
直前で逃げたのかと思ったが、よくよく見てみると、先程まで猫がいた場所に何かある。
Aさんは車が来ていないことを確認し、道路にあったそれを拾い上げた。
黒いビニール袋だった。
「確かにアレは猫でした。見間違いなはずがありません」
たまたま猫がいた場所にビニール袋があっただけ・・? しかし、車道にいる猫を見た時、そんなものは見当たらなかった。
Aさんは小首を傾げながらビニール袋を改めた。
そして、『それ』を発見して絶句した。
「ビニール袋の中には、私のカノジョの写真が貼られていたんです。その写真は、赤黒い何かで大きなバツが付けられていました」
Aさんの親戚には拝み屋がおり、すぐに彼女にその写真を見せに行った。
「はん」
写真を見て、拝み屋は鼻で笑った。
「ものっすごい低級な『呪い』だよ、コレは。こんなんじゃ、どうせ大したことなんて起きやしなかったろう?」
カノジョさんは危うく轢かれそうになったものの、確かに拝み屋の言う通り、起こったことといえば『猫が現れた』ことだけである。
「効力も切れてる。もう何も起きやしないよ」
そう言って、拝み屋はさっさと帰れと言わんばかりに手を振った。
しかし、大したことないとはいえ、呪われたというのは事実である。今回は大事無かったものの、次もそうだとは限らない━━
「はん」
Aさんが不安を覗かせると、拝み屋は再度小馬鹿にした笑みを浮かべた。
「次なんてありゃしないよ。呪いは呪いだ。失敗したら『それまで』さ。それは、低級だろうが上級だろうが関係ないのさね」
数日後、Aさんと同じ会社に勤める女性が、マンションのベランダから転落死した。
その女性はAさんよりもかなり年上で、顔を合わせた程度の記憶しかなかった。
彼女は転落する直前、警察に「家の中に黒い男がいる」と110番通報をしていた。
しかし、警察が家の中をくまなく捜索したものの、彼女以外の人間がいた形跡は見つからなかったという。
死亡した女性の身体には、黒いカーテンが巻き付いていたそうだ。
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