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 わたしの髪は真っ黒で、人気がいまひとつだ。  女神ラプンツェルを讃える信者たちの、参詣時の人気が。  とはいえ、長蛇の列ができる淡い色の髪には負けるにしても、わたしの黒髪に触れたがる殊勝な信者も存在する。一日にひとりいるか、いないかだが。けしてゼロではないのだから、捨てたものではない。  求めてくる信者の傾向は、異性への告白を成功させたい、勝負運をあげ賭け事で儲けたい、とかいった、軽い望みで足を運ぶ大半の層とは真逆だった。たいていが、病気の親を助けたい、貧しい自分を拾ってくれた主人に恩を返したい、などといった、重くて真摯な望みから巫女に霊力を分けてもらいにくる。  必死になっている人間こそ、強い霊力を持つ髪が見抜けるのかもしれない。  わたしの髪に触れる信者は、お願いします、お願いします、とたばを握りながら何度も繰り返す。インターホンから聞こえてくるその声を聞いて、わたしは願いに即した霊力を髪に乗せて送り返す。  あなたの願いが叶いますように。  苦労したぶん幸いがありますように。  自分を求めてくれた信者たちに、わたしはそうやって応えてやる。たまに力を感じ取れる信者もいて、黒髪の巫女さま、ありがとうございます、と涙声で礼を述べる。  真っ黒い、ハズレ髪の巫女。  下界の民に流布している、わたしの芳しくない噂は消えないのかもしれない。  でも、わたしはすべての人間に、自分を好いてもらおうとは思わない。霊力の量がそこそこで明るい色の髪を讃えるのも、霊力の量は底なしだが暗すぎる色の髪を讃えるのも、個人の自由だ。陰気な黒髪が嫌いだと言われても、べつにかまわない。まあ、こっそり傷つきはするけれど。  わたしを理解してくれるひとが、それなりにいれば充分だ。
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