1/1
前へ
/8ページ
次へ

 わたしの髪は真っ黒で、人気がいまひとつだ。  誰からの人気かって? 女神ラプンツェルを讃える信者たちの、だ。  はるかむかし、魔女により塔に幽閉されていた長い髪の乙女。困難の末に敵の支配から逃れ、愛する王子と結ばれた彼女は、死後は神格化され崇拝の対象となった。  囚われた理由は、髪に霊力を宿す体質だったという。  もともと我が国では、この伝説と同じ体質の娘がけっこうなわりあいで生まれていた。いまやそうした娘たちは、幼いうちに見習い巫女として神殿の奥の養成院に入れられる。三十世紀の現代における魔女の塔、というわけだ。  見習い巫女になった娘たちは、女神を倣い髪を伸ばす。もちろん、ただ長くすれば済むわけではない。健康的な美しさがともなっていなければならないので、食生活や手入れにだって気を遣う。食事のたびに山盛りの海藻を食べるし、シャンプーやコンディショナーの銘柄だって真剣に選ぶ。  なぜこうも努力するかというと、成人して正式な巫女になってからは、髪に宿る霊力を信者にわけ与える務めがあるためだ。  巫女たちは、高い神殿の窓から、たばねた髪を下界へとおろす。地上では民が待っていて、毛先に触れようと躍起になっている。女神ラプンツェルに通じる霊力は、万病に効いたり運気をあげたりできる、と言われているのだ。  でも、霊力があるといっても、どの巫女の髪も平等に求められるわけではない。  いちおう、世間的なランクがある。そしてわたしは、カースト最下位の黒髪なのだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加