落語『腹ん中』前編

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落語『腹ん中』前編

 名人・三遊亭圓生(えんしょう)師匠風に読んでください。  えっ? 知らない? ならば金髪豚ヤロ、失礼、春風亭小朝師匠でもいいです。  それもご存じない? では『笑点』のハゲ、いやいや、ニューフェイス、一之輔師匠でお願いします。 《出囃子》 「え~~、毎度ばかばかしいお話で、ご機嫌を伺おうと存じます。 『江戸っ子は、五月の鯉の吹き流し、口先だけではらわたはなし』なんて川柳がございますな。  これを地でゆく男が、江戸は神田の往来を歩いております。  名は黒兵衛。  当世のはやりの(まげ)を、こう、斜めにしましてな、粋に『め組』の半纏(はんてん)を着た、火消しの若いもんでございます。  おいババア、誰かと思えば、おめえ八五郎んとこのおっかあじゃねえか? なに往来をチンタラ歩いてやがんでぃ。  これは黒さん。なにねぇ、あたしの甥っ子が風邪ひいたってんで、お見舞いに行くとこなのよぅ。  なにをがのたくったように歩きやがって、おとつい、井戸端でつっ転んで、腰ぃいわせたばっかじゃねえか?  よしなよしな、そうゆうのが年寄りの冷や水ってもんでぃ。けえってジジイの死に水でも取っていやがれ。  七つ長野の善光寺、八つ谷中の奥寺で、手鍋さげてもいとやせぬ。 あなた百までわしゃ九十九まで、共にシラミのたかるまで。ってなもんよ。  甥っ子って、熊のこったろう? どうせ野郎のこった、今頃ぴんぴんして、そこの居酒屋で酒でも飲んでらい。  おいらもちょっくら、そこ行くとこだ。  熊がいたら、ババアの死に目に会いに行くよう言っといてやるよ。  こう、まくし立てて歩いてまいりますてえと、神田上水の上蓋(うわぶた)の上で、子どもが()ったりほど、遊んでおります。  おっ、おうおう。ガキがこんなとこで遊んでんじゃねえ! そこの上蓋は腐ってて、ガキのきたねえホコリやら、しょんべんやら、へえるじゃねえか? 早くどかねえと、拳固(けんこ)くらわすぞ!!  泣きながら、ワっと逃げてまいります。  おっ、相変わらずイイ女だねえ、おせんちゃん。  四谷赤坂麹町、ちゃらちゃら流れる御茶ノ水、粋な姉ちゃん立ちしょんべん。てな、憚り(はばかり)にゃあ、は早く行きなよぅ。  あっちぃパクパク、こっちぃパクパク、まさに、吹き流しですな。 (続く)    
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