落語『腹ん中』後編

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落語『腹ん中』後編

 これを見ていました往診帰りの町医者、伯山(はくさん)先生。  おお、何とも口汚い若者よ。さぞや町の者々も不快であろう、どれ、わたしが行って慰めて、折あらば薬のひとつも売ってまいろう。    これこれ、ご内儀。あれな無礼を受けて、さぞやご不快であろう。  ここに、わたしの調合した生薬(しょうやく)がある。飲めば心もすっとするぞ。  これは伯山先生。いえいえ、黒さんのいつものお話ですよぅ。  ああ見えても、きっと黒さん、甥っ子の長屋まで見に行ってくださる。  そんな方なんですよぅ。  左様か…… しからばごめん。  あそこに母親に泣きついておるのは、先ほどの(わらべ)じゃな。拳固をくろうて泣いておるのじゃな?  これこれ童の母親よ、ここにわたしの作った膏薬(こうやく)がある。貼り付ければ立ちどころ……  これは伯山先生。いえねえ、こないだもあそこの上水に乗って遊んでた子が、羽目板が割れて溺れたばかりなんですよぅ。  あたしゃ気が気がなかったんですが、子どものことでしょ、いくら言っても聞きゃしない。  黒さんの拳固が、いい薬になりました。    伯山先生、これは的が外れたと帰っていきやした。  火事と喧嘩は江戸の華。    その夜、深川にあります伯山先生の屋敷の近辺から火事がありまして、め組の黒兵衛も、スワッとばかりに駆け付けます。  ようやく火が消えますってえと、そこにふたつの仏さん。  どうやらこの二つ、ひとつは黒兵衛、ひとつは伯山先生。  黒っ焦げなんで、区別がつきゃあせん。  みな、ほとほと困っておりますと、そこに来ましたのが、め組の頭領。    簡単じゃねえか、腹ん中見てみろ。  黒い方が医者で、白い方が黒だ。  お時間がまいりましたようで……」 《受け囃子》 (了)
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